舞阪商事(株)商品開発課課長として勤務して何年になるだろうか。

 新入社員としてこの会社へ入社した時は、まだ大学出たばかりのペーペーだった俺は学生時代に学んだ知識だけでかなり自惚れたままここの仕事に取り組んだ。

 営業部でかなり上層部に扱かれたがそれなりの評価を貰えることが出来た。それに、会長直々の経営学を学ぶ機会が与えられ、俺は更に自分の将来は明るいものだと他の社員との違いを悦びに感じていた。


「課長、来週から新人が入るそうですよ。」

「もう、そんな季節か。早いなぁ、一年が過ぎて行くのは。」

「オッサン臭い事言わないで下さいよ。まだ、課長は十分若いでしょう?」

「そうでもないぞ。もう、十分オッサンだからな。」


 同じ開発課のイケメン社員新藤晃(しんどう あきら)がニヤケタ顔をして話かけている。きっと、オッサン臭いと思っているからそんなニヤケ顔をして見せるのだろう。

 そんな新藤相手に笑って誤魔化す年でもないが、本当に俺も年だと感じるような事もある。

 体力の低下を感じる時もあるが、最近、風邪を引きやすくなったからか、年齢を感じるようになった。もしも、俺が結婚して子どもがいれば、今頃はかなり大きな子どもたちに囲まれて生活していたのだろう。


「課長は結婚しないんですか?」


 同じく開発課の狩野絵美里(かのう えみり)が興味深そうに俺の顔を覗きこみながら聞いてきた。

 すると、横から新藤が面白おかしく話しはじめる。


「モテすぎて遊び疲れて今体力温存中ってところでしょ?引く手あまたで困ったんじゃないですか?夜な夜な女の誘いに乗っちゃダメですよ。年なんだし~」


 本当に、この新藤と言う男は俺をどんな男だと思っているのやら。そんな生活が出来れば今頃独り身で居るはずもないだろうに。