その頃、桜華は片付けを終え、休憩にしようと朔羅を呼びに部屋へ向かった。

客室は中庭に面した場所にあり、儀式を行った部屋から屋敷の廊下を半周する形になる。

角を曲がると其処には、縁側に横向きに倒れた朔羅が居た。

『…っ!!?』

慌てて駆け寄り、様子を見る。

すると、すやすやと規則正しい寝息が聞こえた。

『おやおや…全く、何かあったのかと思いましたよ』

クスクスと苦笑して、静かに朔羅の横へ腰掛ける。

同い年の平凡な少年。
当主となり、絶大なる責任を背負った桜華は、隣で気持ち良さそうに眠る彼を、切なそうな面差しで眺めた。

『任を外れられたなら、或は私も………』

普通の人間で居られたのに。

桜華の声は、眠る彼には届かなかった。

暫くして、朔羅は目を覚ました。

「……ん…」

目を擦りながら起き上がり、大きく欠伸をする。

その横には、黒猫を抱えた桜華が座っていた。

『やっと起きましたか』

猫の背中を撫でながら朔羅に振り向く。

『お茶にしようと呼びに来たのですがね、気持ち良さそうに眠って居るものですから、起こすのも可哀想に思いましてね』

そうクスクスと笑うと、徐ろに立ち上がった。

「ごめん…なんだか心地よくて寝てしまった」

『大丈夫ですよ。さぁ、お茶にしましょうか。日向で寝て喉が乾いたでしょう?』

朔羅に手を差し伸べる桜華の長い髪が、サラサラと風に遊ばれ舞う。

その姿に一瞬、魅了される。

男同士だというのに、たまにドキッとする行動をされるのは何故だろう。

いや、桜花は無意識なのかもしれない。

そう思う事にした。

当の本人は、いつまでたっても手を取らない朔羅に小首を傾げている。

『朔羅さん、大丈夫ですか?』

「……っ!!だっ、大丈夫」

現実に戻って来た朔羅は、慌てて桜華の手を取り、勢いよく立ち上がる。

不思議そうに見詰めて来る桜華に、苦笑いで返すと、困った様に眉を下げて微笑まれた。

『さて、此方ですよ』

背を向け歩き出す桜華の後を追い、朔羅も歩きだした。