道中、沢山の魑魅魍魎に出会したが破魔弓の不思議な力のお陰で無事、神威兄弟の屋敷へ到着した。

門前で待って居たのであろう、瞬華が此方に気付き、右手で横、縦と順に空を斬る様に振りながら近寄ってくる。

『臨 兵 闘 者 皆 陣 列 在 前…散っ‼』

呪文を唱え、最後に勢いよく白いモノを掛けられた。

「…………塩?」

『浄め塩だ。桜華が待って居る、着いて来い』

以前と同じ様に、瞬華は案内をする。

その後を追い掛ける様に、朔羅と破魔弓は歩きだした。

今回は、茶室ではなく母屋の奥座敷へ通された。

そこには、目を閉じ姿勢正しく鎮座した桜華が居た。

桜華の背後には祭壇があり、座敷の中央には五芒星の式陣が描かれている。

瞬華に、その一歩手前の座布団に座る様に指示され、大人しく座った。


朔羅が座ると同時に、閉じていた目をゆっくりと開いた桜華は、柏手を三度叩いた。

一度目の柏手がパンッと鳴り響いた直後、全ての戸が勝手に締り、あっという間に座敷の中は暗闇になる。

二度目で四隅に配置された蝋燭に火が灯った。

三度目の柏手で、五人の少女が桜華の背後に現れる。

『朔羅君、私の後ろに居る子達が視えますか?』

「…うん、視える」

そう答えると、困った様に笑いながら桜華は、そうですかと言った。

『朔羅君、この子達は本来、常人には視えない存在なのです。君は、私達の力の影響で視える様になり君は今、とても危うい状態にあらります』

『よって、これより朔羅君の浄化及び、守護授印を行います』

朔羅は、無理やり連行され、有無も言わさずに塩を掛けられた事を思い出し、腹を括った。

「拒否権は無さそうだよね…分かった。どうすれば良い?」

その応えに桜華は、ニッコリと微笑むと陣を指差した。

『状況読み込みが早くて助かります。それでは、其処の式陣の中央に座って下さい』

言われるがままに、式陣の中央に座り直すと、少女達が朔羅を囲む様に五芒星の端に移動した。

『そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私が祝詞を唱えた後に柏手を三度鳴らします。その間、目を閉じてゆっくり十秒数えて下さい』

「分かった」

指示通り、深呼吸した後、目を閉じゆっくりと十秒を数え始める。

すると、桜華は先程まで話していた声とは違い、低く良く通る声で祝詞を唱え始めた。

少女達は、両手を朔羅へ翳し、桜華と異なる呪文を唱える。

桜華の祝詞と少女達の呪文が重なり合って、不思議な旋律を奏でた。

そして、三度目の柏手の音が鳴り響いたと同時に、十秒数え終わった。

目を開けると、桜華は小さな勾玉を懐から取出し、呪文を唱えながら五芒星を描いた。

『朔羅君、気分は如何でしょうか?』

「さっきよりは、楽になった…様な気もする…?」

曖昧に答えながら、桜華を見る。

桜華は、自分の髪を一束切ると、細く編み込みながら束ねて紐状にすると、勾玉の穴に通し管玉や丸玉を均等に通して結んだ。

それを破魔弓に渡し、破魔弓は朔羅へ運び差し出す。

『受取って下さい。御守りです』

少々疲弊した様子の桜華が微笑み言う。

『その勾玉には守護神の力を込めました。必ず、君を守ってくれます』

受取った勾玉を眺めると、中に五芒星が描かれてあり、その中央には小さな青い炎が揺らめいていた。

「ありがとう」

素直に礼を述べると、桜華は頭を横に振った。

『いいえ、君の生命に較べれば大した事はしていませんよ』

サラッと怖い事を言った様な気がしたが、気の所為だと思う事にした。