一週間後。

連休の為に家族は旅行に出掛け、朔羅は部活の為に留守番を任された。

ゆったりとした休日の、午後に差し掛かった時刻に自室で目覚めた朔羅は、自分を上から覗き込む様に眺めている幼女に驚き、悲鳴を上げた。

「うわぁぁぁぁっ‼」

勢い良く飛び起き、ベッドから落っこちる。

そんな様子を見ていた幼女は、朔羅を指差すと"去ね"と言葉を発した。

すると、朔羅は何かの衝撃を受け、撥ね飛ばされる感覚がした。

だが、実際には何も起こっておらず、ベッドに寄り掛かったままの格好をしていた。

見た感じ七歳程の幼女は、寝起きのぼんやりとした頭で状況整理する朔羅に近付き、パーンっと両頬を両手で叩いた。

『何を呆けておるのじゃ、早よう支度せい。様子を見て居ったが、御主は早急に祓わねば成らぬ』

ほれ早く!!と急かされ、言われるままに着替え、自室の戸を開けた。

フヨフヨ…ウジャウジャ…。

「…………」

バタンッ。

開けた戸を勢い良く閉め、七歳程の幼女へ振り向く。

「あれ何っ!?」

幼女は朔羅を見上げ、ニタリと笑い答える。

『魑魅魍魎じゃ。御主、視える様になったのじゃな?恐ろしいか?』

ってか、そもそも着物姿で浮遊している君は誰なんだ⁉と突っ込みたい気持ちを呑み込む。

今はそれどころじゃない。
どうにかして外に出なければならないのだ。

『うむ…そうじゃな、こうして居ても埒が明かぬ。妾が先頭を歩こう、着いて参れ』

心の内を読み取ったのか、幼女は先立って部屋から出て行った。

幼女が通る先にウヨウヨしていた魑魅魍魎なるモノは、幼女を避ける様に散りじりに去ってく。

真っ白な髪をなびかせ浮遊する幼女の後に続き、家の外に出た朔羅は顔を引き吊らせた。

家の中だけでなく、町中に魑魅魍魎が蔓延っていたのだ。

「こ…これって、僕以外の人達も視えてるの?」

前を行く幼女に訊ねれば『視えて居らぬ』とハッキリと否定された。

だから、祓いに行くのだと幼女は語る。

『御主は、主様方の霊力に充てられたのであろう。あの方達の霊力は強大じゃ。故に影響力も強い』

「もっと分かるように説明してよ。主様?…って事は、君はあの二人の?」

凡人の朔羅には、幼女の言う事が理解出来ず、詳しい説明を求めた。

すると幼女は、大きな溜息を吐き、やれやれといった体で朔羅へ振り返る。

『全く、これだから人間は…。妾は、九十九の破魔弓(はまゆみ)…神威桜華の式神じゃ。詳しい話しは、華魅町の屋敷へ行ってから全て話してやろう』

そう言い、銀灰に耀く瞳を華魅町の方角へ向けた。

「……分かった。取り敢えず、今は二人の家に行こう」