クレープを食べ終え、先程の噂に出ていた花屋に足を向ける。

華魅町の町外れにその店はあった。

花屋とゆうからに、洋風な店なのかと思って居たが、目の前にあるのは純和風の広いお屋敷だった。

盛大な門構えの看板にはご丁寧にも、墨筆で"華舞依ガーデン"と書かれている。

どうにも似合わない組み合わせだ。

和風な建物に墨筆ならば"ガーデン"ではなく、普通に"花屋"で良いじゃないか。

そんなどうでも良い事を考えて居ると、背後から声を掛けられた。

『もし?其方、そちらで立ち止まられて居ては、お客様の邪魔になりまする。お退きになって?』

古風な喋り方の主へ振り返れば其処には、着物を身に纏った少女が姿勢を正して、此方を見上げていた。

肩で切り揃えられた癖のない真っ直ぐな黒い髪に良く映える真紅の着物。

くりくりと円らな黒い瞳は、まるで黒曜石を填めたかの様で綺麗だ。

まるで日本人形の様だと考えていた朔羅に、少女は少し困った顔をする。

『其方、お客様かの?妾の言葉が通じぬのかのぅ?』

「いや、あまりにも君の容姿が可愛いから、つい魅いっちゃって…ごめんね?」

少女はその言葉を聞くなり、慌てて顔を着物の袖で覆い隠した。

『なななっ、何を申します///わっ、妾は可愛いなどと…///』

「あははっ、そんな照れなくても良いじゃないか」

少女は照れ隠しをしたまま、アワアワと慌てふためいていた。

『騒がしいと思って来てみれば、緒琴(おこと)お前だったか』

「うわぁっ?!!」

突然、話し掛けられ朔羅は飛び上がった。

だが、話し掛けられたのは朔羅ではなく、緒琴と呼ばれた少女の方だった。

『主様…申し訳ありませぬ…』

先程までの焦っていた姿が嘘の様に、今はシュンと項垂れている。

門の戸に背を預け、腕を組んだ和装の青年が、視線だけを向ける。

恐縮した緒琴を眺め、次に朔羅を見て瞠目したかと思えば、目を細め全てを見透かす様に見つめられた。

僕、何かした⁉
朔羅は内心で叫んでいた。

暫くの沈黙の後、和装青年は戸から背中を離し朔羅の方へ近寄り、目の前で立ち止まった。

長身の青年と朔羅の視線がかち合う。

『……ついて来い』

それだけを告げると、背を向け門の中へと入って行った。

一瞬、何が起きたのか理解出来なかった朔羅は、斜め後ろに立つ緒琴を振り返る。

緒琴は微笑み、ゆっくりと頷いた。

行け…とゆう事か。