「何してんの、長谷部くん」


「んーと、先輩略奪?」



楽しそうに笑って長谷部くんは私に言った。



「ちょっとドキドキしたりしました?」



期待を込めたその目は、まるで子供のようだ。


うーん、ドキドキ、か。


状況的にはドキドキよりも、ビックリ寄りな気がする。



「……お姫様だからなー」


「何がですかー?」


「王子様だったらドキドキしたかもだけど、お姫様だからさ」


「そこか…!」



意地悪にそう言えば、途端に不満げになるお姫様は口を尖らせた。


こらこら、お姫様がそんな顔しちゃいけないでしょう。


笑いそうになっている私を、長谷部くんがジーッと見つめてきて、私は顔を背けた。



「今わらっ」


「てない」


「……ですよね、まだまだです」



うんうん、と頷いた長谷部くんは、立ち上がり教室の端にあるダンボールの中に手を突っ込んだ。



「まーたり先輩。俺ね、実は知ってるんです」



意味深にそう言って、長谷部くんはダンボールからフリフリのメイド服を取り出した。



「何を知ってるって?」



意味がわからず、そう尋ねれば長谷部くんは悪ガキのような笑みを浮かべた。