千春は興味がなさそうに肩をすくめた。
 彼女は自分はいいと言っていた。それと何か関係があるのだろうか。

「成宮さんは女優なの? 発音もすごくいいし、表情だって」

「だってこいつは」

 千春は自分の兄の足を踏みつけ、肘で脇腹つく。

「素人よ。素人。一般人だって。あなただってやってみなさい。プロになりたいのでしょう?」

「でも、そんなにうまくできない」

「やりなさい。命令よ」

 彼女の言葉には有無をいわせない強さがあった。

 わたしはさっき千春がやった通りにやってみようとした。

「本当、パパったら」

 そう言おうとするが、言葉が上ずる。

「そんなんじゃだめよ。照れてどうするのよ」

 早速千春の注意が入った。

「こういうところでやるのは恥ずかしいかな、なんて」

 わたしが千春を見ると、彼女は怖い顔で睨んでいる。

「そんなんで女優になれるわけないでしょう」

「お前は自分基準で物事を考えるなよ。お前がいいと思ったなら、大丈夫だよ。きっと」

 彼はそう言うと、千春の頭をぽんと叩いた。