小さな児童公園のブランコにつばきは座っていた。淡いピンク色のカーディガンに白いスカートという女の子らしい服装をしている。
退屈しのぎにつばきがブランコを揺らすと、白いスカートが花びらのようにふわりと広がった。

「危ないから、あんまり遅い時間に出歩くなよ」

玲二はちょっと怒ったような顔でつばきに近づくと、公園の入口の自販機で買ったストレートティーをつばきに差し出した。つばきはふわふわとした女の子らしい容貌に似合わず甘いものが嫌いだった。珈琲はブラック、紅茶はストレート、ケーキもアイスもプリンもいっさい食べない。そのちぐはぐさはちょっと可愛いなと思う。

「まだ7時じゃない。玲二ってうちのお父さんより口うるさい」

そう言って、つばきは口を尖らせた。
綺麗な二重瞼のぱっちりした瞳、くるんとカールした睫毛、つやつやの唇。
シャンプーなのか香水なのかは知らないけど、つばきはいつも果物のような爽やかでほのかに甘い香りをまとっていた。

二人はブランコを囲う柵にもたれるようにして、並んだ。

つばきは別になにか話したいことがあって玲二を呼び出すわけじゃない。
本当になんとなく、ただそれだけなのだ。だから、玲二は何も聞かない。つばきが話し出したら、それに相槌をうつだけ。

つばきが好きかと聞かれると、即答はできない。だけど、つばきと過ごす時間は好きだった。甘く柔らかで、なんの意味も持たない時間。

ふと、つばきのおしゃべりが止んでふたりの間に沈黙が流れる。つばきは無言のまま玲二の肩に頭をもたれかけさせる。
上目遣いにじっと玲二を見つめる。

いつものつばきからのサイン。

玲二はそっとつばきの肩を抱き寄せて、彼女の唇にキスを落とす。
唇が触れ合うだけの優しいキス。

「ふふっ」

つばきははにかむように微笑んだ。