考えてみれば、飽きっぽくて何でもすぐに投げ出してしまうあの母親がみちるのことはぎりぎり投げ出さずにいてくれたのだ。自分は意外と強運の星の元に生まれたのかもしれない。
少なくとも、あの人はこのしょっぱ過ぎるラーメンくらいではビクともしないらしい健康な身体をみちるにくれた。

不幸を数えるのではなくて、今この手の中にある幸運に感謝しよう。


◇◇◇

「あの‥‥沙耶ちゃん呼んでくれるかな?」

みちるは勇気を振り絞って、沙耶ちゃんの教室の前までやってきた。近くにいた子に声をかけて呼んできてもらう。
これから告白でもするかのようにみちるは緊張していた。
だって、まともに話をするのは小学校の時以来だ。

「びっくりした。なに、どうしたの?」

久しぶりに対面する沙耶ちゃんは以前とは少し印象が変わっていた。
前はもっと女の子らしい雰囲気だったような気もするけど‥‥あぁ、でもくりっとした聡明そうな瞳は昔のままだ。

「急にごめんね。 あのね、バスケ部の大会もうすぐだよね⁉︎ お弁当とか‥‥差し入れしても大丈夫かな? 勝手なことしたらダメかな?」

みちるは緊張のあまり矢継早に質問を投げかけてしまう。 沙耶ちゃんは呆れた顔でため息をついた。

「あのね、小学生じゃないんだからお弁当くらい個人の自由よ。
お腹壊すようなひどいもんじゃなきゃ、好きに渡してよ」

「そっか。 お腹壊さないメニューってどんなのがいいのかな⁉︎」

「知らないよ。梅干しおにぎりでも詰めとけば?」

沙耶ちゃんは心底呆れていた。けど、なんだかんだ言いながらもいくつかアドバイスをくれた。

きちんと火を通すこと。
油分や脂肪分の多いものは避けること。
果物はオススメ。

沙耶ちゃんの指導を参考にして、みちるは暇さえあればお弁当のメニューを考えた。ただそれだけで、嬉しくて幸せな気持ちになれた。