裏道の蝶を探すのは終わりにしよう。
もう何かに縋るのはやめて、自分自身の力でしっかりと運命を切り開こう。

みちるにとっての裏道の蝶は五條君だったのかもしれない。彼がこの町に来てくれたことで、みちるや修の日常はほんの少し変化をした。小さな変化はみちるの意識を変えるきっかけになってくれた。

そして、今、ようやく大切なことに気がついた。

今みちるが立っているこの場所がどれだけ素敵で、どれだけ価値のあるものかということに。

世界中どこへ行こうともみちるの帰る場所はたったひとつだ。


◇◇◇

修に会ったらきちんと謝ろう。そう思っていたのに、すっかり吹っ飛んでしまった。

「俺、みちるが好きだ。 今まで気づいてなかったけど、もうずっと前から。
俺は、子供の頃には戻りたくないんだ。‥‥新しい関係を築いていきたいっ」

まっすぐな瞳で見つめられて、心臓が潰れるんじゃないかってくらいにドキドキした。
いつのまに修はこんなに背が伸びたの?
こんなに男らしい低い声だったっけ?
目の前の男の子はたしかに修なのに、みちるの知らない男の人みたいだ。

「だからさ、東京でも外国でもどこへでも、みちるは自由に行きたいところに行ってきて。俺はみちるが帰ってきた時に自信を持って迎えられるように頑張るって決めたから」

力強い眼差しでみちるを見つめる修は、もうかつてのお人好しで気の弱い少年じゃなかった。
夢見るチカラとそれを実現させる強さを手に入れていた。


◇◇◇

あれから1ヶ月。
梅雨の最中であることを忘れたかのように晴れ渡った空の下、みちるは久しぶりに修と並んで学校へ向かって歩いていた。

『返事とか、いつでもいいから』

修のその言葉に甘えてはっきりとした答えを出さないままに随分と時間が経ってしまった。修は大会に向けてバスケ部の練習が忙しかったみたいで、このところはゆっくり話をする時間もなかった。
正面から修の顔を見るのは久しぶりで、なんだか妙にドギマギして気恥ずかしい。

「あ。俺さ、今年はレギュラーで大会に出れそうなんだ」

修は照れたような顔で、でもどこか誇らしげにそう言った。

「ほんとに⁉︎ そっか〜よかった。最後の大会だもんね。頑張って」

「うん、サンキュ」

修の長年の積み重ねを知っているだけに、みちるも自分のことのように嬉しかった。
なにかしてあげたいな‥‥。ふいに五條君の声が耳に蘇った。いや、応援は‥‥やっぱりどうしても恥ずかしい。

王道だけど、お弁当とかはどうだろうか。修は喜んでくれるかな。
みちるは隣を歩く修の横顔をそっと盗み見る。練習がきつくて少し痩せたせいだろうか。以前より顔つきが引き締まって、大人っぽくなった気がする。