……ん?






……あれ?



「……ちょっと待てよ」


俺は一人立ち止まった。


「なに和泉、怖いの苦手なくせに肝試しでもしたいわけ?」


玲生は出口に足が吸い込まれるように

一刻も早くここを離れようと首だけ振りかえる。


「いや、多分これ、幽霊じゃねぇよ」


「は?なんでそう言いきれるわけ?」


「だってさっきから上から声聞こえてんだろ」


「……そういえば、そうだね」


再び桜の方に向かってく俺に、湊もついてくる。


下から覗き込むように桜を見上げると、

そこにはピンクの桜に紛れて制服のスカートのようなものと

黒い髪が僅かに見えた。



……うーーーん、


「湊、あれ、生きてると思うか?」


少しおそるおそる聞く俺に

湊は同じように覗き込むと断言した。


「……確実に生きてるでしょ。

死体だったら喋んないだろうし

そもそも幽霊だったらあんな所で寝るような風に

横になってないだろうし」



「……そうだよな」


でも、だったらなんであんなとこに女がいるんだ?


再びさっきの位置に腰を下ろした俺を見て、

玲生たちは幽霊じゃないんだと判断したのか

こっちに戻ってきた。



「で、どうする。」


俺の言葉に湊はうーーん、と唸る。


玲生は同じように覗き込むとげ、と顔をしかめた。


「なんだ女子じゃん、

起こさなくていいんじゃない。

起きたら起きたで女子なんてうるさいだけだし」



……まぁ、それもそうなんだが。


それにしたって、

あんな所にいるのはいくらなんでもあぶない。


「湊」



「わかってる。

さすがに女の子をあんな所に寝かしとくわけにはいかないよ」


湊はうなずくと、上を見上げた。


「おーい!そんなとこで寝……」


「ごめんなさい、


ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……



























……生きてて……ごめんなさい」







その女の、多分、寝言だろう。


……あまりにも、



……痛々しい心の叫びのようだった。




孤独なのか、孤高なのか、切なくて、寂しくて


辛い、辛い、と、その美しい声は叫んでいた。



……俺たちは、息を飲んだ。








「……」






なにが、そんなに……



その女を苦しめているのか、分からない。



でも、彼女がどうしようも無く助けを求めているように


俺には思えた。