「ごめんマリオン、忙しいのに」

「いいえ、殿下の恩師のためですから。……申し遅れました、シオン殿下とシャンリー殿下の母君であられる、ノギク妃殿下付きの女官、マリオン=ガルシアでございます。何かと至らぬ身ですが、精一杯務めさせていただきますのでよろしくお願いします」

 ドレスの裾をつまみ、足を引いて挨拶をするマリオンに、リプニーは首を傾げる。

「ガルシアさん、ということは……」

 チラリと視線をやった黒髪の騎士が、こくりと頷く。

「私の妻です」

「あ、やっぱりそうなんですね。こちらこそよろしくお願いします」


 自己紹介が済んだところで、さっそく修行を始めることにする。シオンとシャンリーは隅の方へ移動し、それを見守った。

「リプニー様は武術は習ったことがないとお聞きしました」

「はい、その通りです」

「ですが、凄いものをお持ちですね……」

 マリオンはリプニーの持つ携行砲に目をやる。

「銃に関しては、我々に教えることは出来ないのだが……」

 申し訳なさそうにヴィルヘルムが言う。

「はい、これはいいんです。その、敵に接近された場合の対処を学びたいと思いまして」

「なるほど、そういうことですか」

 ガルシア夫妻はふむふむと頷く。

 そして徐にマリオンがリプニーの体を触りだした。

「は、はわわっ!」

「うん、やはり筋肉はありませんね。腕は良いですが、下半身は駄目です。よくこれでそのように大きなバズーカを持っていられますね。きちんと狙い撃てますか? 相当反動が大きそうですが」

「そ、そう言われますと……やはりこれでは駄目でしょうか」

「駄目です」

 きっぱりと断言されて、リプニー、がっくり。

「その獲物を持ったまま回避行動が出来れば良いということだろうか」

 ヴィルヘルムが訊く。

「そうですね、この携行砲は頑丈に出来ているので、槍術か棒術のような動きが出来ればいいかな、なんて……。あとは、携行砲なしでも攻撃に転じられるように……。見ての通り、弾薬には限りがありますので」

「成程、それでは最初にマリオンから先に指導をさせていただきます」

 ヴィルヘルムはマリオンに目配せする。マリオンは笑みを浮かべて頷いた。