信二と別れに至るまで、それほど時間はかからなかった。

いつの間にか私の中で、
大田くんへの気持ちが大きくなっていってることは確かで、この状態で信二と付き合い続けるのは申し訳ないと思った。

バイトから帰ると、信二に着信をかけた。
3コールほどですぐに出た。
信二もどうやら家に帰っていたらしい。

「もしもし?」
「どうしたん?」

まだこんな時間に私の方から掛けてくるのは珍しいと思ったのか、不思議そうにしているのが携帯越しに伝わってきた。

「あのさ、ちょっと話したいことがあって」
「...何?どしたん?」

少し間を置いて、口を開いた。

「信二との、未来が見えてこんくなった」
「......」

突然の重い話に、信二も沈黙を続けた。

「....もう俺のこと嫌いになったん?」
「嫌いじゃないよ、ただ、このまま付き合ってても、よくないかなって」
「冷めたん?」

そう聞かれて、答えられなかった。
信二を傷つけずに別れようと、そう思っていたけどこちらから別れを告げる以上それはできないと思った。嘘をつくのが下手だ。

「.....そう、かも、しれない.....」
「なんとなく、それは気づいてたけど。なんなん? 他に気になる人できた?」

また答えられなかった。
それは言いたくなかった。

「違うよ、私の気持ちが冷めただけ。それだけ....」
「何かきっかけがないと、そんなことならんやろ。なんかあったん?」

信二は、私に問いかけてこう続けた。

「俺は、別れたくない...でも、花梨菜の意思が固いなら、どうすることもできんな」

少しの沈黙が続いた後、私が話し始めた。

「信二ってさ、あんまり気持ちを表現してくれへんよな。私の事、好きかどうかわからんくて、この1年間ずっと不安やった」

思い返せば、信二の方から好きとか言葉も
そこまで聞いたことなくて、
休みの日に会おうとしても
ちょっと野暮用があるからそれ終わってから
とかいって後回しにされたり、
デートの誘いもいつも私からだった。
この人何考えてるんやろ。
そんな疑問がどこかにずっとあった。

「それは、前にも言ったやん。俺はそうやってうまく気持ちを表現できひんって。でもこうして付き合ってるから、好きに決まってるやん」

「俺はこうだからって自分を変えようとせえへんの? そういう所が....嫌やねん!」

...ちょっと言いすぎてしまったかもしれない。
でももう戻れなかった。

私達は終わりだ。

終わってしまったんだ。