「こんにちは~、お久しぶりです!」

前回の駅の目の前。
彼はメールを送ってから数分で私の前に現れた。
前回と同じようなにこやかな笑顔で、私は少しほっとした。

「早いですね、こんにちは」

「じゃ、ここじゃなんですから、移動しましょうか」

彼は慣れたように駅を突っ切って、会った場所とは真逆の場所に私を連れて行った。
誰でもそうだと思うけれど、知らない場所に連れて行かれる恐怖に、
私は裏ビデオみたいな展開を考えていた。
このまま怪しい場所に連れて行かれたらどうしよう?

だって、駅の真逆なんて行ったこともなかったから。

股間思い切り蹴ったら逃げられるかな?

だけれど、連れて行かれたのは至って普通の喫茶店だった。

「何飲む?」

彼はブラックコーヒーをセレクトしていた。
私は特に見栄も意地もはらずに、オレンジジュースをいただいた。

「俺タバコ吸うんだけれど、喫煙ルームでもいいですか?」

「あ、私も吸うので大丈夫です」

彼はビックリしていたけれど、私はもうその反応に慣れていた。
前髪ぱっつん、黒髪セミロング、ナチュラルメイク。
誰がどう見てもタバコを吸う容姿でもなければ、そもそもが未成年だったから。


「じゃあ、説明させてくださいね」


席に着いて、彼はカバンから紙とペンを取り出した。
それから、風俗と水商売の違い、自分のお店の給料等を教えてくれた。

正直、心惹かれた。
高校時代あんなに頑張って働いた給料が、こんなに簡単に手に入ることに。

一通り説明が終わって、たくさん質問をした。
2時間くらい話し込んだくらいで、喫茶店が閉まるということで、
私たちも外に出た。

「じゃあ、一応説明も終わったけれど、どうする?」

どうする、その質問の意図がわからずに、私は彼を見た。

「まだ時間があるならお店でも見ていく?」

夜のお店。興味があった。
私は携帯を見て、終電を調べたあとに、まだ時間があることを確認した。
それでもやっぱり恐怖感があって迷っていると、彼がひと言。

「一応面接もしたし、お店見学もしていったら、5千円、面接交通費ってことで渡せるんだけれど」

私は、ついていくことにした。


お店はさっきの喫茶店から10分くらい歩いたところにあった。
やはりというか、雰囲気が怪しい。
未成年の私が果たして入っていいのだろうかとドキドキしながら入口に案内される。

すぐに約束の5千円をもらった。
これだけでお金がもらえるなんて。

少し様子を見ていったら?との提案で、女の子の待機室に座らせてもらう。
女の子ももちろんいたけれど、夜をしているなんて見えない普通の子がいた。


「……あの~」

私はどうしても耐えられずに声をかけた。

「はい?」

ふんわりとした雰囲気の、優しそうなお姉さんだった。

「なんでここで働いているんですか?」

彼もお姉さんもびっくりしたように私を見た。
そして笑って、彼を見てから、

「佐藤さんに誘惑されちゃってさ~」

と、笑いながら話した。
彼、もとい佐藤さんもそれに乗っかって笑っていた。

結果的に言えば、やはり金銭面が苦しくて働いているようだった。
病気についてもなったことがないし、楽しいよって笑っていた。

その後も何人かのお姉さんに話を聞いたけれど、みんな同じようなことを言っていた。




私が紹介されたお店は、ヘルスと、もうひとつピンサロというものだった。
ヘルスプレイだけれど、シャワーのない、半仕切りで区切られているだけのお部屋。
ヘルスは個室でシャワーをあびるけれど、個人だから、本番強要が酷いとのこと。
もうひとつは半仕切りだけど、本番強要は極端に減る。

女の子がいないピンサロのほうのお店に、私は強く誘われた。
だけれどやっぱり怖さは消えなくて、私は佐藤さんに駅までまた案内して駅まで行った。

また連絡すると約束して別れて、非現実の世界とお別れしたのだった。