私は携帯で性病について調べてみたけれど、怖さ不安が募るばかりで、
どうしても働こうという気持ちにはなれなかった。
給料が良くても、それだけの理由で病気に一生悩まされるくらいなら、と振り切れるくらいには
特にお金に困っていなかったから。
でも、非現実の逃げられる世界が私にはどうしても欲しかったから、
佐藤さんに病気についてのメールを長々と送りつけた。
そしたら、病気リスクはやっぱりあるとのことだったけれど、
嘘をつかずにスムーズに返してくれたことに好感が持てたし、
しっかり説明してくれたおかげか、ひとりで病気について調べていた時よりは明らかに安心していた。
私は、彼を信用しきっていた。
その後電話をし始めた。
仕事終わりのメールと電話はもはや日課のようになっていて、
私は佐藤さんと話しているだけて非現実に逃げられるような気になっていた。
時には1時間で終わることもあるし、朝までまるまる電話し続けることもあった。
仕事終わりに一緒にお茶することもあったし、何よりここまで男性に優しくされたことのなかった私は
彼に依存、そして好きになっていた。
彼の仕事休みに合わせて自分も仕事をサボリデートもした。
今の仕事を無理にしなくても、佐藤さんのところで働ける。
そんな気持ちも強かったと思う。
佐藤さんと私には10歳の差があったけれど、同年代にはない落ち着きや、
将来設定の高さ、意識や仕事に対する熱意など、惹かれる面がたくさんあった。
しばらくしてから、私は彼に働く決意がついたと伝えた。
彼はとても喜んでくれて、私も同時に嬉しくなった。
「働くにあたって、未経験者は『講習』があるんだけれど」
講習とは、お店の接客内容を、ボーイさんに実際にして、練習することだったけれど、
その講習は佐藤さんではなく、お店の経営者さんとしなくてはいけないらしかった。
「佐藤さんじゃなきゃ絶対にやだ!」
ほかの人にするなんて、好意もないのに無理だ。
今考えれば、これから何人も好意のない人を相手にするのに、なんて馬鹿を言っていたのだろう。
だけれど、佐藤さんは私のわがままを聞いてくれるから、ついわがままの度が過ぎたんだと思う。
佐藤さんは迷って、yesの返事を私に出した。