「誰も見てない?」



「ああ、見てない。」



俺が手で合図すると、祭は男子トイレに飛び込み、でんぐり返しをして、



「シュタッ!」



と手で拳銃を作って、決めポーズ。純粋に汚い。



「さあ、今だ! ゴー! ゴー! ゴー!」



祭の手の合図で俺は普通に点滴台を転がしてトイレに入った。



しかし、入ってすぐに祭に頭を押さえつけられた。



「バカヤロー! 死にてえのか! 姿勢を低くしろ!」



大袈裟だ。



「俺は男だから、普通に入っても大丈夫なんだよ!」



そう小声で言ったが、祭は聞いちゃいない。



そのまま一番手前の個室に入り込み、壁に背中を付けた。純粋に汚い。



「ほら、聡二等兵! 早く来い!」



誰が二等兵だ! 点滴台を転がして、祭の後に続こうとするが……入れない。



「どうした? 聡二等兵!」



「それが……。」



点滴台が入り口で引っかかって、入れないのだ。



普段なら上手く向きを変えてやれば入るのだが、今は二人で一つの個室を使おうとしているのだ。定員オーバーだった。



「なるほどー。そういうことか……よーし!」



祭が点滴台にそっと近づき、俺の左腕を掴んだ。



「おまっ! まさか……。」



「ていやっ!」



点滴の針を引っこ抜いたのだ。