「さあ、聡くん! 何を食べますかー!?」



グレーの買い物かごを持った祭は、まるで自分のことのようにワクワクしていて、陳列棚に並んだカップ麺を吟味している。



「カップ麺を食べるのか?」



「あれ? カップ麺は嫌い? なら、お弁当もあるよ!」



そう祭に腕を引っ張られるまま弁当のコーナーに行くと____ああ、ダメだ。本当に喉から手が出てきそうなほど、美味しそうなコロッケや、唐揚げや、ポテトサラダや白米がパックと言う名の監獄に閉じ込められている。



あまりにも感動的な光景で、俺は思わず涙ぐみそうになった。可哀想なおかずたちよ。今すぐにでも救ってあげたくなった。



「ほらほら、どれにするー? 唐揚げ? コロッケ? のり弁もあるよー?」



この中なら迷わず唐揚げだ。唐揚げが楊貴妃だ。そして、コロッケがクレオ・パトラで、のり弁が小野小町といったところか。



とにかく、この欲求を満たせるなら楊貴妃に限らず、クレオ・パトラでも小野小町でもよかった。



「ほらほら、聡くーん! 私を食べてー?」



祭が弁当で顔を覆い隠し、アフレコをした。その人をばかにしたような態度に、俺は現実世界に引き戻された。



「ダメだ。やっぱり、食べちゃダメだ!」



「だからだよ。私はただやっちゃいけないことをしようって言ってるだけだよー? 趣旨に反してないし、それに罪はバレなきゃ罪にはならないんだよー? ダイジョウブタンガスだよ、聡くん!」



ブタンガスは知らないが、この都合のいい屁理屈、まるで「盗人にも三分の理」ということわざがぴったりと当てはまる、狡智で佞弁な言葉が身に染みた。



しかし、それを理性や世間体が合体して、正義感となり、邪魔してくる。



「もう! わからず屋だなー! じゃあ、私が選ぶね……よし、コロッケくん! キミに決めた!」



祭がコロッケ弁当に手を伸ばした。俺はそれを遮って、唐揚げ弁当を取った。



「ふふーん。わかってるじゃないか、聡くん!」



ああ、俺は今、とんでもなく悪いことをしている……。