そして、いつものように母さんとすれ違う形で、伏見さんが点滴台を転がしながら戻ってきた。
手にはビニール袋を持っていて、「よっこいしょ。」とベッドに腰を下ろすと、カーテンの間から顔をニョキッと出した。
「よお、坊主。元気か?」
「だから、元気だったらこんなとこにいないですって。」
「ははっ、そりゃそうだ。」
そして、買ってきたらしい缶ビールをプシュッと開けて、旨そうにそれを飲んだ。
「ぷはー! 死ぬぅ。」
病院で「死ぬ」なんて言葉を使うなよ。
「そういえば、坊主。昨日はえらくはしゃいでたなー。怒られたか?」
「ええ。みっちりと。伏見さんの方はどうだったんですか? 点滴抜いてましたよね?」
「ああ。看護師長のババアにあれこれ言われたが、まああんなのは怒られたうちには入らんかのう。」
あんたも十分おっさんだ。人のこと言えない。
「それより、今日もやるのか?」
「いや、やりませんよ。腹痛いですし。」
「そうかあ。でも、いいのか?」
「いいんですよ。それに、あれだけ怒られて、また走ったりなんかしたらそれこそ、退院させられてしまいますよ。」
「いいわけないでしょ!」
伏見さんとは違う声に、驚いていると、ベッドの足元の方のカーテンがシャーッと開いた。そこから現れた紺色のカーディガン姿の女子に見覚えがある俺は、声を上げた。