「ねぇ、陽斗君？」


やっと俺の名前を呼んだ。
上杉陽斗ってのが嫌になってた今日この頃だったが、名前を呼ばれないのは、俺を拒否されているようで嫌だった。



「何？」


満面の笑みを浮かべて返事をした。


「あなたの職業は？ところで何歳？」


そりゃ気になるだろうな。
一つ屋根の下に暮らす見ず知らずの男。
素性をしりたいのは当たり前の摂理。


「大学生、１９だけど。董子さんは？」


意地悪にも俺は彼女にも同じ質問を繰り返した。
俺はヒモなんだから、彼女の言いなりにならなきゃなんない。
けど、彼女は俺の質問に素直に答えた。


「電機メーカーの営業よ。歳は２９．陽斗君よりも１０も上ね。」


隠すことなく素直に素性を話す。
何て純粋な人なんだと、心の底から思った。


また、そう言ってクスリと笑ったその顔が、その純粋さと反比例して妖艶過ぎて、俺は董子さんに惹き込まれた。
董子さんのその笑顔に、俺の心は一気に持って行かれた。