「……母さん死んだ後、いろいろあった。 父さん、寂しがり屋で結構弱い人だから、付け狙ってくる奴とかいっぱいいてさ。 ……まあ、利用されたっていうの? 一時期会社も傾いて、その時、屋敷も手放した 」


「……へぇ、」


あたしも湧人の隣に座る。

湧人はぼんやり屋敷の方を眺めていた。



「 オレ……その時、人間不信でさ。誰にも心開けなかった。でも、ある時、父さんがオレに土下座したんだ。 すまない、これからはちゃんと心入れ替える、だから許してくれって。何度も何度も謝った。 そのあと、父さんめちゃくちゃ頑張ってさ、まだ前のようにはいかないけど、この屋敷だけはって買い戻してくれたんだ 」


「……そう、だったんだ 」


「 うん。会社がちゃんと再建できて、父さんが海外から戻って来たら、またここに住むつもり 」


「……そっか 」


——サワサワ……

木の葉が擦れ合う音だけが聞こえていた。

静かな時間が流れてゆく……



「……あの、さ、」


沈黙をやぶるように湧人がそっと口を開いた。


「 かっこ悪いから、言うの嫌だったんだけど、オレ虐待っていうか……暴力受けてたんだよね。父さんの再婚相手だった人から……。 オレ、変に鋭いとこあるから、再婚相手はそこが気に食わなかったみたいでさ 」


うつむき加減に湧人が言う。


「……あっ、でも今は違うから! 自分の身は自分で守らなきゃって、空手だって習ってるし! ……って、言いたい事はそうじゃなくて…… 」


「……?」


「……だからさ、みくのそのアザ見た時、もしかしたら昔のオレみたいに、誰かに暴力を受けてるんじゃないかって、思った…… 」


「……え? ……あ、」


……そうだった。

そういえばあたし、勘違いされて……


「 湧人、ちがう。これは、」

「 分かってる 」


湧人がゆっくり視線を合わせる。



「 D.S.P。闇の特殊警察。超能力で、闘うんだろ?」


「……っ!」