「何年か前までは〜あそこさ住んでだんだぁ〜。あそこが湧人の本当の家でぇ〜。 んでもお母さんが病気で死んでしまってぇ〜……」
「……あ、 ……うん」
「死んでがら〜すぐにお父さんの方が再婚してしまってぇ〜。それもどうがど思って心配しでだんだげっどぉ〜、やっぱりぃ〜……」
「……?」
「その再婚した女の人〜意地悪ぐてぇ〜、湧人が殴られだりしたんだぁ〜。蹴っ飛ばされだりぃ、タバコ押し当てられだり……」
「……えっ、」
「湧人、心配かけだぐながったのかぁ、ずうっと黙ってだんだげっどぉ〜、さすがにお父さんも気付いでぇ、揉めだげどやっと離婚しだんだぁ〜。でもぉ、湧人がふさぎ込んじまってぇ、しばらく誰さも口聞かなくて〜心を閉ざしたままだったんだぁ〜」
「…………」
「だがら、娘さんのアザ見て思い出して、余計心配したんだと思うよお?」
……そうか。
だから湧人、あんなにあたしを問い詰めて……
「 湧人、まだ小学生だげっとも、いろいろ苦労してっがら……だがら、人の事もよく気がつくんだよお?」
「……そう、なんだ 」
「 遠慮しなくてもいいんだよお? 娘さんも、お家の人に殴られんでしょお?」
お婆ちゃんが悲しげに見つめる。
……ん? あれ?
なんかあたし、勘違い、されてる?
「 あ~。お婆ちゃん、ちがう。これは、」
その時、“カタン” と部屋の奥で物音がした。
「 なんだべ?」
お婆ちゃんが“よいしょ” と腰を上げ、すぐに様子を見に行った。
「…………」
……う~ん。
あたしは複雑な気分だった。
あたしには何でもないこのアザが、まさかこんなに湧人やお婆ちゃんの心をザワつかせるなんて……
なんか、悪いこと、したな。
あたしは口元に手を当てる。
すると、
"ジワ~ッ"
突如、右手のしるしが反応する。
「 お婆ちゃん!」
あたしは部屋の奥へと走って行った。