けれど、言葉に反して私は動けなかった。フィオーラを抱いていたからじゃない。魔杖の飛んでいった先に、忘れたくても忘れられない姿があったから。
こんな状況ではふざけているとしか思えない赤と黄色の衣装。私の大ッ嫌いな道化師。確か名前はカイ。私の感じた視線はコイツのだったのか!魔杖は元々そこにあったかのように、ヤツの右手に収まった。
「どうしてお前がここにいるんだ?」
道化師は小バカにするようにケラケラと笑いながら言う。
「嬉しいなぁ、その驚きよう。ピエロ冥利に尽きるね。
あぁ、そうそう。質問ね。君の姉さんが斬り殺したフィオーラちゃんを助けたのは僕だよ?気になるじゃないか。涙の再会、殺し合いの再会の様子がさ。」
「煩い!」
「マチルダ様、ヤツのペースに乗せられませぬよう。」
「分かってるけど……。」
「はっはっは、流石は"姉さん"。冷静だねぇ。」
「……道化師カイ、貴方がこの島でどのようなろくでもない企みをしているかは知りません。けれど、フィーは返してもらいます。」
姉さんの言葉には強い響きがあった。
「あれ、フィオーラちゃんはお気に召さなかったのかい?
でもさ、いくらフィオーラちゃんに全然相手にされないからって、"フィオーラちゃんが要らない"だなんて酷くない?それに、いくらポーンでもずっとお子ちゃまだと可哀想でしょ?こんな美女に育て上げた僕には感謝してくれなきゃ。」
道化師に茶化されても姉さんは微動だにしない。真っ直ぐに鋭い眼孔を飛ばしている。
ただ、私は、自分のことのように腸が煮えくり返ってきた。
「アンタ、バッカじゃないの?それ、フィーの意思とは関係ないじゃん!」
「意思?そんなもの、ある訳ないじゃないか。それは単なる人形。ある魔導士が君を乗っ取れなかったときのために掛けておいた保険さ。」
「えっ……。」
道化師の言葉に私は絶句した。
「流石、王女様は聡明でいらっしゃるねぇ。
そうだよ。君たちが助けようとしている"それ"は、君がサロモに抗えば苦しみを課せられる、十字架に張り付けられた哀れな人形なんだ。」
道化師がわざらしいほど悲しそうな顔をする。
「つまり、彼女の苦しみは君のせいなんだ。君が運命に逆らえば逆らうほど、フィオーラは悪の導師の器として完成されていく。悲しいよね。助けようと頑張ることが、フィーを遠ざけていたなんて。あぁ、もしかしたら、フィーが君たちに靡かなかった原因は、案外そんなところなんじゃないかな。
なんなら、今からでもサロモに身を捧げてごらんよ。フィオーラちゃんはきっと帰ってくるよ。」
「マチルダ様、道化の偏見に満ちた言葉には耳を貸さぬように。」
「……分かってる。」
「道化!そのような物言い、人を馬鹿にするのも甚だしいでしょう。
我が剣に賭けて、マチルダ様に仇なす者は、私が全て斬り捨てます。それがたとえ道化の仮面であっても、主の因縁の魔導士であっても!」
姉さんの言っている意味がよく分からなかった。
「……もう、単なる堅物かと思ったら、全然食えないポーンだねぇ。で、いつ頃から、そして何処まで知ってるんだい?」
「私には頼もしい仲間がいます。『救済』の残党の調査を続けるうちに、彼の教団の背後に潜む影に気付いた者がいました。」
「え?どういうこと……?」
私には何が何だかわからない。道化師はうっすらと笑みを浮かべている。
「先に我が友と剣を交えたときに確信しました。『救済』の陰にいる黒幕、多くのポーンを操り、企てを進めるのは、道化師のふりで人を欺く"覚者"カイ、貴方でしょう。
そして、古の覚者より呪いの像を守る使命を与えられた一族の集落を滅ぼしてまで像を奪い、マチルダ様のお持ちになられていた秘石『竜血石』とで行おうとしていたのは『反魂の術』。ここまでのフィオーラに対する執着と、先程、マチルダ様に言った言葉から察するに、蘇らせようとするのはサロモ。違いますか?」
驚きの連続だったが、私たちを助けてくれていた相手には心当たりがあった。姉さんが私に内緒で連絡を取っていたルゥさんとジェシカさん。これだけの調査や魔術の知識なら納得がいく。
「なかなかいい線いってるよ。でも、ありがたいなぁ。自分でネタばらしをするのってシラケるじゃないか。」
道化師から嫌らしい笑みは消えない。
「せっかくだから一つ訂正してあげるよ。"蘇らせよう"じゃなくて、もう"蘇らせちゃった"んだよ。
さぁ、漸く出番だよ。サロモくーん。」
こんな状況ではふざけているとしか思えない赤と黄色の衣装。私の大ッ嫌いな道化師。確か名前はカイ。私の感じた視線はコイツのだったのか!魔杖は元々そこにあったかのように、ヤツの右手に収まった。
「どうしてお前がここにいるんだ?」
道化師は小バカにするようにケラケラと笑いながら言う。
「嬉しいなぁ、その驚きよう。ピエロ冥利に尽きるね。
あぁ、そうそう。質問ね。君の姉さんが斬り殺したフィオーラちゃんを助けたのは僕だよ?気になるじゃないか。涙の再会、殺し合いの再会の様子がさ。」
「煩い!」
「マチルダ様、ヤツのペースに乗せられませぬよう。」
「分かってるけど……。」
「はっはっは、流石は"姉さん"。冷静だねぇ。」
「……道化師カイ、貴方がこの島でどのようなろくでもない企みをしているかは知りません。けれど、フィーは返してもらいます。」
姉さんの言葉には強い響きがあった。
「あれ、フィオーラちゃんはお気に召さなかったのかい?
でもさ、いくらフィオーラちゃんに全然相手にされないからって、"フィオーラちゃんが要らない"だなんて酷くない?それに、いくらポーンでもずっとお子ちゃまだと可哀想でしょ?こんな美女に育て上げた僕には感謝してくれなきゃ。」
道化師に茶化されても姉さんは微動だにしない。真っ直ぐに鋭い眼孔を飛ばしている。
ただ、私は、自分のことのように腸が煮えくり返ってきた。
「アンタ、バッカじゃないの?それ、フィーの意思とは関係ないじゃん!」
「意思?そんなもの、ある訳ないじゃないか。それは単なる人形。ある魔導士が君を乗っ取れなかったときのために掛けておいた保険さ。」
「えっ……。」
道化師の言葉に私は絶句した。
「流石、王女様は聡明でいらっしゃるねぇ。
そうだよ。君たちが助けようとしている"それ"は、君がサロモに抗えば苦しみを課せられる、十字架に張り付けられた哀れな人形なんだ。」
道化師がわざらしいほど悲しそうな顔をする。
「つまり、彼女の苦しみは君のせいなんだ。君が運命に逆らえば逆らうほど、フィオーラは悪の導師の器として完成されていく。悲しいよね。助けようと頑張ることが、フィーを遠ざけていたなんて。あぁ、もしかしたら、フィーが君たちに靡かなかった原因は、案外そんなところなんじゃないかな。
なんなら、今からでもサロモに身を捧げてごらんよ。フィオーラちゃんはきっと帰ってくるよ。」
「マチルダ様、道化の偏見に満ちた言葉には耳を貸さぬように。」
「……分かってる。」
「道化!そのような物言い、人を馬鹿にするのも甚だしいでしょう。
我が剣に賭けて、マチルダ様に仇なす者は、私が全て斬り捨てます。それがたとえ道化の仮面であっても、主の因縁の魔導士であっても!」
姉さんの言っている意味がよく分からなかった。
「……もう、単なる堅物かと思ったら、全然食えないポーンだねぇ。で、いつ頃から、そして何処まで知ってるんだい?」
「私には頼もしい仲間がいます。『救済』の残党の調査を続けるうちに、彼の教団の背後に潜む影に気付いた者がいました。」
「え?どういうこと……?」
私には何が何だかわからない。道化師はうっすらと笑みを浮かべている。
「先に我が友と剣を交えたときに確信しました。『救済』の陰にいる黒幕、多くのポーンを操り、企てを進めるのは、道化師のふりで人を欺く"覚者"カイ、貴方でしょう。
そして、古の覚者より呪いの像を守る使命を与えられた一族の集落を滅ぼしてまで像を奪い、マチルダ様のお持ちになられていた秘石『竜血石』とで行おうとしていたのは『反魂の術』。ここまでのフィオーラに対する執着と、先程、マチルダ様に言った言葉から察するに、蘇らせようとするのはサロモ。違いますか?」
驚きの連続だったが、私たちを助けてくれていた相手には心当たりがあった。姉さんが私に内緒で連絡を取っていたルゥさんとジェシカさん。これだけの調査や魔術の知識なら納得がいく。
「なかなかいい線いってるよ。でも、ありがたいなぁ。自分でネタばらしをするのってシラケるじゃないか。」
道化師から嫌らしい笑みは消えない。
「せっかくだから一つ訂正してあげるよ。"蘇らせよう"じゃなくて、もう"蘇らせちゃった"んだよ。
さぁ、漸く出番だよ。サロモくーん。」