「……ダ様、マチルダ様。」
ん、前にもあったな、こんなこと。
「もう本当に無茶をなさいます。ポーンの身体になられていたから良かったものの。」
瞳をゆっくり開く。心配そうに覗き込む姉さんの顔があった。私、姉さんの腕の中だ。
「……ごめん、姉さん。って、何、その顔?」
姉さんの顔、煤だらけ。思わず吹き出してしまう。どうやら大丈夫だ。手を付いて身体を支え、姉さんの腕を出る。
「もう、心配したのですから!」
と言いつつ、姉さんの方が項垂れる。伏し目がち、美しいのだけれど、どこか儚く、壊れてしまいそう。
「……本当に申し訳ありませんでした。
 断りもなくこのような勝手な行動をした挙げ句、こうしてまたマチルダ様を危険な目に遭わせてしまいました。
 サロモやカイとの戦いの折もちゃんとお守りできず、私は……貴女に仕える戦徒として失格です。」
「そういうのは私のキャラなんどけど。」
思った通りだ。いろいろホッとして、微笑みが零れた。
「ユリカに言われちゃったよ、うじうじし過ぎだって。
 でも、姉さんは、いつも冷静沈着で格好良くて、私の憧れなんだ。そりゃあ、誰だって全然思った通りにならなくて、無力さを噛み締めるときはあるよ。でも、自分を痛め付けたって、過ぎた時は戻らない。私は、いつだってずっと前を見据えて闘い続ける姉さんが好きなんだ。」
「……私はなんと幸せ者なのでしょうか。」
姉さんの顔を流れる一筋の涙。初めて見るよ。暫く姉さんはそのまま咽び泣いていた。私は堪らなくなって、姉さんの頭ををギュッと抱き寄せた。いつもと逆だね。私の腕の中にいる姉さんの言葉をそのままで聞いた。
「私はずっと、戦う中で覚者様に代わって痛みを感じることが、私自身の存在意義だと思っておりました。永劫の時を歩む旅路で、大切なものを守れなかったこともあります。その喪失感や無念さは、この身を傷付けることでしか埋められないと思っておりました。
 けれど、今はこうして人の想いを感じることができるのですね。私の中に息づいていた人の心が、貴女と出会うことで確かに芽吹き、今の私がある。そして、こんな私をこれほどまでに思ってくださる……本当にご心配をお掛け致しました。」