それから数時間後。儀式の準備に忙しく動き回り、私も目を合わせる暇もない魔女二人を前にして、我ながらすっとんきょうな声を出すことになった。
「……えぇぇぇ!そうなの?」
二人は尚も準備に勤しみ、目を合わせないままに応える。
「あら、言ってなかったザマスか?」
「全ッ然、聞いてないッ!いや、むしろ簡単だって……。」
「まぁ、私とジョリーンさんでなら、成功するのは簡単でしょうね。」
「で、でも、そんなに大変な魔法だったらお願いするだなんて……。」
「では、他に宛はあるザマス?」
「……。」
ユリカが手を止め、その眼光が私を真っ直ぐ捉える。
「まったく、昔っからそう!あんたのそうやって他人を気にして、すぐウジウジするところは大ッ嫌いだわ。見ててイライラする。」
「おおぅ、ド直球ザマスわね。」
「……ユリカ。でも……。」
「でも?『でも』何?
 もう一度言うけど、『転身の秘術』は世界の理を変えようという魔術。例え、末端と言えども、理の中の存在が、それを形成する外郭に触れるということは、存在そのもの滅しかねない行為なの。だから、これは大きな代償が必要で、これを使えば、私たちは暫くは目を覚まさないでしょうね。1週間かも知れないし、1年かも知れない。グランシスに二度と帰ってこられないかも知れない。でも、今、これは私にしかできないの。そして、マチルダ……大切な友人である貴女のためなら、私は躊躇いなく、これをやり遂げることができる。」
「あらま、近くにいるだけで、汗でお化粧が落ちてしまいそうなほど、お熱い友情じゃありませんこと?
 でもね、マチルダさん。誰しも自分の果たすべき使命をもって生きているの。それが自分の存在を懸けられるほどの相手のためであれば、これほど嬉しいことはないわ。こういう時は甘えればいいんですのよ。」
ジョリーンさんの笑顔も、ユリカの真剣な眼差しもとっても眩しかった。
「ジョリーンさん……。」
「……しっかしまぁ、前の『古の秘術』の時といい、今回といい、これだけ覚者に迷惑と愛情をかけられる戦徒はそうはいないザマスわね。シルヴィアさん、早くお戻りになりなさい。」