「……ん?ここは……?」
爽やかな潮風を鼻に感じて目を覚ます。なんだか久しぶりだな、こんなの。ここはカサディス、私の部屋──。
「って、ピエロは!?姉さん!?」
自分でも漫画みたいな驚き方だなって思う。けど、それくらいパニックで。
「マチルダさん、目が覚めたんですね。」
誰かが部屋に入ってくる。私の慌てようとは対照的な穏やかな木漏れ日のような笑顔と声。
「ドロシーちゃん!?どうして?」
「ふふっ、慌てないでください。順を追って説明しますから。」
黒呪島の入江で、時折訪れる覚者やポーンを出迎え、励ましてくれるドロシーちゃん。きっと、またすっごくお世話になっちゃったんだろうな。そんな彼女から聞いた話は、私を暗い気持ちにさせるのに十分だった。勿論、ドロシーちゃんに責任はないんだけど。
あの白い爆発は幾つもの大きな爆発を伴って、黒呪島の形を歪ませるほどだった。けど、幸い、姉さんも私も一命は取り留めた。どうも、ジオゴーレム相手に最後まで優勢を保っていたジークさんが、私たちを救ってくれたらしい。けれど、そのジークさんも、ドロシーちゃんが私たちを助けたのを見届けた後、姿を消してしまったそうだ。
因みに、私は丸三日も寝ていたんだって。どうりでこんなにお腹が空いている訳だ。あ、ドロシーちゃん、ありがと♪さっすが気が利くなぁ。こんなに美味しいシチューは久し振りだよ。
……何処まで話したっけ?あぁ、ジークさんはいなくなって、他のみんなもロストこそしなかったものの、ぼろぼろで、島の近くの海を漂っているような状態だった。そこをオルガさんとドロシーちゃんに助けてもらったんだ。で、みんな、今はリムに戻って休養している。そう、あの強靭なポーンのみんながすぐに帰ってこられないほどのダメージを負ったんだ。
それから、姉さんは……ドロシーちゃんにさえ多くを語らず、動くことさえ儘ならないような身体を引き摺りながらリムストーンに消え、行方が知れないって。みんながこんな状態になってしまったことに、変に責任を感じてなきゃいいけど。姉さんもだけど、ポーンのみんなは責任感が強すぎるんだよね。つくづく感じる。
そして、あの憎きピエロがどうなったかは分からない。サロモも。
「……あの、差し出がましいようなんですけど。」
ドロシーちゃんが口を開く。
「サロモは普通の人間です。覚者でもポーンでもありません。反魂の術で蘇った、本来有り得ない存在で、その仮初めの命は、術者の魔力に依るんです。だから、術者の意思に逆らい、魔力が供給されなければ、存在できないんです……。」
そうか、そうだったんだ。姉さんがサロモに言いかけてたこと、やっと分かった。サロモはピエロの命令で動くことより、例え存在できなくなるとしても、自分の意思で私たちと戦うと決めたんだ。……今は、サロモが許せない奴だったかもよく分からない。ただ、魔導を究めんとする思いは純粋だったと思う。もし、カイの言葉に真実があるのなら、私もサロモも、魔剣リディルを探すというカイの遊戯版の上で踊る二つの駒だったんだ。そして、互いに引き合い、見事に役割を演じきった。そんな私たちだから、少しでもどちらかの道が違っていたら、きっとこんな関係じゃなかった気がする。そして、やっぱりもうこんなのたくさんだって思った。自分の意思とは関係のないところで誰かを憎んだり争ったり……そんなのもう要らない。私は、私の意思で生きたい。この世界に、他人の運命を勝手に決める、そんな存在がいるのなら、本気で許せないよ。カイも赤竜も、もっと別の誰かも。覚者にみんなが言うような力があるのなら、もしかしたら、全てを断ち切るためにあるんじゃないのかな。
もう寝ている場合じゃない。ドロシーちゃん、あの剣、リディルは?──ありがとう!姉さんが戻ったら、出発しよう!
爽やかな潮風を鼻に感じて目を覚ます。なんだか久しぶりだな、こんなの。ここはカサディス、私の部屋──。
「って、ピエロは!?姉さん!?」
自分でも漫画みたいな驚き方だなって思う。けど、それくらいパニックで。
「マチルダさん、目が覚めたんですね。」
誰かが部屋に入ってくる。私の慌てようとは対照的な穏やかな木漏れ日のような笑顔と声。
「ドロシーちゃん!?どうして?」
「ふふっ、慌てないでください。順を追って説明しますから。」
黒呪島の入江で、時折訪れる覚者やポーンを出迎え、励ましてくれるドロシーちゃん。きっと、またすっごくお世話になっちゃったんだろうな。そんな彼女から聞いた話は、私を暗い気持ちにさせるのに十分だった。勿論、ドロシーちゃんに責任はないんだけど。
あの白い爆発は幾つもの大きな爆発を伴って、黒呪島の形を歪ませるほどだった。けど、幸い、姉さんも私も一命は取り留めた。どうも、ジオゴーレム相手に最後まで優勢を保っていたジークさんが、私たちを救ってくれたらしい。けれど、そのジークさんも、ドロシーちゃんが私たちを助けたのを見届けた後、姿を消してしまったそうだ。
因みに、私は丸三日も寝ていたんだって。どうりでこんなにお腹が空いている訳だ。あ、ドロシーちゃん、ありがと♪さっすが気が利くなぁ。こんなに美味しいシチューは久し振りだよ。
……何処まで話したっけ?あぁ、ジークさんはいなくなって、他のみんなもロストこそしなかったものの、ぼろぼろで、島の近くの海を漂っているような状態だった。そこをオルガさんとドロシーちゃんに助けてもらったんだ。で、みんな、今はリムに戻って休養している。そう、あの強靭なポーンのみんながすぐに帰ってこられないほどのダメージを負ったんだ。
それから、姉さんは……ドロシーちゃんにさえ多くを語らず、動くことさえ儘ならないような身体を引き摺りながらリムストーンに消え、行方が知れないって。みんながこんな状態になってしまったことに、変に責任を感じてなきゃいいけど。姉さんもだけど、ポーンのみんなは責任感が強すぎるんだよね。つくづく感じる。
そして、あの憎きピエロがどうなったかは分からない。サロモも。
「……あの、差し出がましいようなんですけど。」
ドロシーちゃんが口を開く。
「サロモは普通の人間です。覚者でもポーンでもありません。反魂の術で蘇った、本来有り得ない存在で、その仮初めの命は、術者の魔力に依るんです。だから、術者の意思に逆らい、魔力が供給されなければ、存在できないんです……。」
そうか、そうだったんだ。姉さんがサロモに言いかけてたこと、やっと分かった。サロモはピエロの命令で動くことより、例え存在できなくなるとしても、自分の意思で私たちと戦うと決めたんだ。……今は、サロモが許せない奴だったかもよく分からない。ただ、魔導を究めんとする思いは純粋だったと思う。もし、カイの言葉に真実があるのなら、私もサロモも、魔剣リディルを探すというカイの遊戯版の上で踊る二つの駒だったんだ。そして、互いに引き合い、見事に役割を演じきった。そんな私たちだから、少しでもどちらかの道が違っていたら、きっとこんな関係じゃなかった気がする。そして、やっぱりもうこんなのたくさんだって思った。自分の意思とは関係のないところで誰かを憎んだり争ったり……そんなのもう要らない。私は、私の意思で生きたい。この世界に、他人の運命を勝手に決める、そんな存在がいるのなら、本気で許せないよ。カイも赤竜も、もっと別の誰かも。覚者にみんなが言うような力があるのなら、もしかしたら、全てを断ち切るためにあるんじゃないのかな。
もう寝ている場合じゃない。ドロシーちゃん、あの剣、リディルは?──ありがとう!姉さんが戻ったら、出発しよう!