「陽菜、いいのいいの。今時は、男の料理だって」
そうして、志穂はクラスをぐるりと見渡した。
クラスの半数の男子が、自作の弁当を持ってきて、女子に披露していた。
新たなカップルがけっこう誕生しているという噂だ。
「斎藤くんまで自作のお弁当ってのは、ちょっと意外だったけど」
確かに、女にもてる事には何の興味もない斎藤が、このブームに乗ってってのは意外だけど、多分、ブームは何の関係もないんだろう。
「すごいよね。前から、お料理できたんだよね?」
遠足の日、班で料理ができたのは、オレと斎藤の二人。
ハルの言葉に斎藤は、優しく笑った。
「うち、母親がいないからね」
「え? そうだったんだ」
ハルが小さく息をのんで、そう言った。
オレも初耳。
「……あ、で、おばあさんが?」
「そうそう」
以前、斎藤の家に遊びに行った時に対応してくれたのは、優しそうなおばあさんだった。
「ばあちゃん、日本人には和食が一番って言って、基本は和食なんだよね。
で、洋食食べたいなら自分で作れって言うから、何となく覚えた」
こともなげに、斎藤が言う。