確かに、今まで何度となく沙代さんの手料理を食べてきたけど、一度だって、こんな事を言い出したことはない。
外ではハルが食べきれなかったものを代わりに食べる事が多いけど、家では沙代さんが気持ち少なめに用意するからか、ハルはほぼ出されたものを全部食べる。
だから、気付かなかった。
「……そっか」
それも、沙代さんの気遣いだ。
いつもいつも、食べきれずに残してばかりじゃ、ハルだってイヤだろうし、ムリして食べたって良いことはない。
ハルの場合、頑張って詰め込んでも胃の調子を崩すだけだから。
だったら、体調を見ながら少なめに用意して、足りなければ、おかわりをした方がハルだって嬉しいに決まってる。
高校生になった今はともかく、子どもの頃なら、尚のことだ。
「どうしました?」
沙代さんが、またしても不思議そうにオレを見る。
「……や、沙代さんには敵わないな~と思って」
「まあ……プロですから、一応」
何も伝えていないけど、オレが何を感じたかは察したらしい。
沙代さんは、少しだけ得意げに笑った。
だけど、この気遣い、プロだからってだけじゃないよな。
ハルへの愛情……だよな、やっぱ。
「食って、奥が深いよね」
「ええ、深いですね」
「……うん。オレも頑張ろう」
オレがそうつぶやくと、オレが料理修行中なのを知らない沙代さんは、不思議そうに首を傾げた。
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