「えーっと、どっちもかな」
「しね。ほんとにしね」
「まじで未子ちゃんのボキャブラリー貧困すぎて笑う」
ニヤついた顔でわたしの顔を覗き込む。むかつく。図星すぎて余計に腹が立つ。確かに語彙力がないというか……自分でも国語の能力がないと思う。そんなこんなで口も悪いしこんな性格のわたしが出来上がったんだろう。
「うそうそ、前者だよ」
突然真剣な顔になおった彼の目はまっすぐわたしを捉えていた。少しドキリと、心臓が熱くなるのがわかる。
「なん、で」
なんで、そういうことを言うのか。いちいち人をおちょくる彼の態度がわたしは嫌いだ。
「だってさぁ真子は可愛いし勉強できるし優しいしおしとやかだけどさ、未子ちゃんはどーかわかんないだろ」
ベタ褒め発言に真子の妹として鼻が高いけど、明らかにわたしと差別化した台詞だ。ぎゅっと拳を見えないように握る。腹が立つ、腹が立つけど今は我慢だ。こんなところで、馬鹿みたいに怒鳴り散らかせないし。怒鳴り散らかしたらまた馬鹿にされるだけ。
「双子って言ってもさ……別人なんだし」
その目はいつもの馬鹿にしたような目でも確信めいた目でもなく、何も考えていないまっさらな目だったと思う。
「あ、そ……」
やっぱりわたしは少し単純なのかもしれない。普通は直前の彼の台詞、態度で腹が立ったままだろう。しかし『別人なんだし』という言葉だけがわたしの中で何度も何度もリピートされていた。まるで壊れたラジオのように、何度も何度も。
もしかしたらわたしが思っているような意味はないだろうし、もしかしたらわたしの機嫌とりかもしれない。しかし今のわたしにはそれだけで充分だった。はじめてわたしが“わたし”になれた気がした。