「ていうかはやく返してよ」
吐き出すように言えば、彼はポケットからこの前わたしが落としたあのハンカチをとりだした。
案外あっさり返してくれたことにびっくりする。
デフォルメされた猫の絵が小さくプリントされているハンカチ。少し子供っぽいけど、わたしの大切なハンカチだ。ピンクとブルー。お互い買って交換した。わたしが持っているのはブルーだ。
今思えば真子とお揃いのものなんか全然なかった。小さい頃はそりゃ同じ服ばかり着てたけど小学校高学年くらいになると真子と勉強の差が出てきた。なんだってできる真子と比べられるのが嫌で、辛かった。真子のことは嫌いじゃないけど評価をする周りが怖くて。こんな性格になったのもこの頃からだと思う。
今お揃いだと言えるのはこのハンカチと、髪の毛だ。わたしは小学生になる頃に髪の毛をバッサリ切ったけど、真子は絶対に切らなかった。なんで?と聞いたことがある。“お人形さんになりたいから”と、シンプルで子供らしい答え。腰まで伸ばすと言っていたけど真子が亡くなったあの時、随分伸びていたけど腰までには至らなかった。わたしが髪の毛を伸ばし始めたのはその頃だ。
今ではお風呂もトイレも大変だと思うくらい、長い。
ハンカチに向けていた目線を隣に座る彼に戻すと、彼もまたわたしの握るハンカチを見つめていた。
「それ、ずっと大切に持ってんだな」
それはすべてを見透かしたような目で。