「…そんなこと、言っちゃだめだよ」

 その一言は、思っていても口に出してはいけない禁句のようだった。

 明らかに変わった空気に、ハサミを止めて琳子をみた。

 麻奈の為に泣ける優しい彼女は、小動物を思わせる丸い目で僕の心を見透かす。

 逃げていること、その責任を背負えと言われている気がした。

 勿論そんなものは被害妄想にすぎなくて、優しい僕の彼女は僕を苦しめる麻奈の全てを許さないだけで。

 その想いがさらに僕を押しつぶしているとも知らずに、あえて口に出す。

 「…いまは、意識がないかも知れないけど。お話は出来ないかも知れないけど…きっと聞こえてると思う。だから…ちゃんと話しかけよう?麻奈さんもそんな怖い事言わないで、ね?」

 きっと聞こえてる。

 そんなもの何年も前から思っていたよ。

 意識はなくてもちゃんと聞こえてる、届いてる。

 そうやってバカみたいに話しかけていたから。

 だけど、悟ったんだ。

 どうしようもない自分の醜さを。

 隠せないんだ、目覚めない少女の前では何もかもが無意味なんだよ。

 謝罪も弁解も、どんな言葉も届かない、返ってこないんだ。何も。