薫の後姿を見送りながら、美鈴は講義に出るのを止めることにした。

今は一緒の場所にいたくない。

そのままとぼとぼと校門に歩みを進めた。

少し早いけど、本屋に行こう。


自転車置き場で自分の自転車のカギを回しながら思う。

薫にしたら、美鈴に腹を立てるのは当たり前なわけで。

でも、あんな言い方しなくてもよくない?

今まで親友だったのに。

拓海が恋をできないことくらい知ってる。

薫に言われなくても知ってるもん。

それに薫がまだ知らない拓海の過去も知ってる。

それがどうしたっていうのよ。

薫に対する優越感に浸ってる自分が情けなくなった。

だけど、今は拓海が大事。

拓海のことが大好きだから、これもしょうがないんだと必死に自分に言い聞かせた。

モヤモヤした気持ちを払拭したくて、いつもより自転車のスピードを上げた。

いつの間にか頬に冷たいものが流れている。

美鈴の目から涙が溢れていた。

久しぶりに流れ落ちる涙に、自分でも驚く。

美鈴は昔からあまり泣かない子だった。

どんなに痛くても、どんなに辛くても、涙を流すとそれだけでとても浅はかに見える。

だから泣くのが嫌いだった。

自転車を漕ぎながら片手で涙をぬぐう。

本屋につくまでに涙を止めなくちゃ。

そう思えば思うほどに涙が溢れた。