「そうなんだ。」

「うん。ごめんね。」

「どうして謝るの?」

「だって、薫も拓海くんのこと好きだったでしょ。そのこと知ってたのに、私も好きになっちゃったから。」

薫は横の髪を耳にかけた。

そして、美鈴に視線を向ける。

その目は、いつもの薫の目じゃなくてとても冷たく感じた。

やっぱり、だよね。

「謝らなくてもいいわよ。謝られたら余計に気分が悪いわ。」

「ごめん。」

薫の冷たい目と聞いたことのない冷静な口調に戸惑った。

初めて薫が怖いと思った。

「いつの間にか食事に行くくらいに仲良くなったのね。」

「食事はたまたま今回そういう話になっただけで、初めてだよ。」

「ふぅん。」

風が薫と美鈴の間を吹き抜けた。

「拓海、そんな話ちっともしてなかったわ。」

薫は空を見上げて言った。

そんな話してない?

薫も拓海とまだ連絡取り合ってる?

美鈴の胸が不安でざわつく。

そりゃ、そうだよね。

以前恋人同士だったんだもん。

お互い嫌いで別れたわけじゃないから、きっといい関係が続いてるのかもしれない。

だけど、そんなこと今の美鈴には到底受け入れたくないことだった。

きっと薫も、美鈴と拓海の関係を受け入れたくないのと同じように。

これもしょうがないんだ。

きっと、今日は拓海と二人で食事に行くための代償。

無理矢理、理屈をつけて思い込もうとした。

「薫も拓海とまだ連絡とりあってるの?」

それを言うのがやっとだった。

「時々だけどね。」

「そっか・・・。」

その時チャイムがなった。

講義が始まる時間だ。戻らなくちゃ。

力の抜けた足をなんとか踏ん張って立ち上がった。

「美鈴が拓海と食事に行くことは全然構わないわ。楽しんできて。」

横ですっと立ち上がった薫は、笑って言った。

「ただ、前も言ったけど、彼は女性と恋ができないの。美鈴も傷つかないようにね。」

ローズの香りがふわっと美鈴の鼻孔をかすめた。

初めて薫が嫌だと思った。