拓海とのバイトの日がやってきた。

帰り、一緒に食事をする日。

デートだ、デート。

美鈴は朝から浮き足だっていた。

バイトはお昼からで、午前中は大学に行った。

薫は長い前髪を掻き上げながら「おはよう。」と言って美鈴に近づいてきた。

薫に内緒で拓海に会うことがなんとなく気まずかった。

拓海に言われたように、美鈴は嘘がつけない性分だったから。

いずればれるなら先に言ってしまった方がいいんだろうか。

だけど、それって薫を傷つけることになる?

でも、知らせないまま二人で食事行くのも、やっぱり気がひけた。

こういうとき、ずるい女になれない自分が不憫だと思う。

「薫、ちょっといい?」

緊張で胸がドキドキしていた。

薫はどう思うだろう。

美鈴を軽蔑するかもしれない。

ショックで泣いてしまうかもしれない。

ただ、恋って何かを犠牲にしないと手に入れられないものだ。

それだけ甘い時間を得るためには、神様に一つだけ自分の大事なものを差し出さないといけないような気がしていた。

それが薫への告白だった。

薫の表情が少し緊張した。

「なに?」

時計を見ると、次の講義までまだ15分ほど時間があった。

薫を裏庭に誘い出す。

裏庭のベンチに二人並んで座った。

「何?何かあった?」

薫は静かに聞いてきた。

「うん、あのね。今日、バイト帰り拓海くんと食事に行く約束したの。」

美鈴は正面を向いて、一言一言大事に話した。

ちらっと薫の表情を見ると、明らかに強ばっていた。

うつむいた薫の睫はとても長くてきれいだった。