少し苦手になった薫とは、やはり日常では毎日のように顔を合わせてしゃべった。

以前と違うのは、美鈴が薫の目を見て話せなくなってしまったこと。

そして極端に拓海の話題を避けること。

薫もかしこい人だから、そんな美鈴の様子を見て、拓海に心惹かれていることに気づいていたのかもしれない。

だから、薫も敢えて拓海の話を避けていたように美鈴は感じていた。


拓海は時々美鈴に電話をかけてきた。

それはとても突然に一方的にかかってくる電話だった。

特別な用事があるわけでもなく。

ただ、電話の方が拓海はよくしゃべった。

女性が苦手だから、顔を見ない方が素直に言葉が出てくるんだろうか。

でも、電話越しの拓海は普段よりも明るいし話しやすくて美鈴は好きだった。

声から、少しはにかむ拓海の表情や、微笑む顔を想像してドキドキしていた。

だけど、決して自分のことを深く話そうとはしなかったし、どこかへ一緒に行こうって言うお誘いも皆無。

美鈴は、それがどうしてかわかっていたけど、とても寂しかった。

そして、とても切なく感じていた。

携帯が鳴る。

「もしもし。」

「寝てた?」

拓海は名乗らない。

どうせ、受信通知で名前がでるでしょ?っていうのが理由らしいけど。

「寝てないよ。だって来週期末テストだもん。いつもさぼってるから寝る暇なんてないの。」

拓海は笑った。

「一夜漬けなんて高校時代で終わりのもんかと思ってたけど、君は違うんだね。」

「一夜漬けまではいかないわ。2~3時間はちゃんと寝てるし。」

「そりゃよかった。」

美鈴は、少し踏み込みたいと思ってスマホを持つ手に力を入れる。

「あなたは時々電話くれるけど、どうして電話してくるの?」

言いながら、手がわずかに震えていた。

次の言葉を聞きたいようで聞きたくない。

拓海は時に突き放したような、冷たい言い方をするから。

今の美鈴にはそれをされたら、立ち直れる自信がない。

それくらい、拓海という人物が美鈴にとって大きな存在になっていたから。