「なんだかよくわかんないけど、ありがとうございます。」

お茶を飲みながら頭を下げた。

その後も、うだうだといつものようなノリでしゃべって笑って怒って時間が過ぎて行った。

どれくらい食べたんだろう。

結構な額を払ってくれていたような気がする。

美鈴は外に出てから、奏汰にきちんと「ごちそうさまでした。」と言った。

「いえいえ。たまにはね。」

たまにはね、か。

結局、どうして奏汰が美鈴を誘ったのかはわからなかった。

本当に理由がないのかもしれない。

別に美鈴を好きだとかそんな感情抜きで、かわいがってる妹分の様子が気になって誘ってくれただけ。

何もなかったことに、ホッとしていた。

「とりあえず家まで送るよ。夜道は危ないからな。最近痴漢の報告も結構あるんだぜ。」

「そうなんだ、気にしたこともなかったわ。」

「少しは気にしろよ。一応、お前も女子なんだからさ。」

「一応、は余計です。」

奏汰は笑いながら車の扉を開けた。

当たり前のように助手席に乗った。

奏汰が警察官だからか、剣道の腕がすごいからなのか、とにかく奏汰の隣に座っていると安心だった。

安心だけど、恋とは違うとはっきり思っていた。

車は走り出す。

「住所教えて。」

「それだけでたどりつけるの?」

「お前、俺一応警察官だし。この辺の地理は地図見なくても頭に入ってるって。」

「それはすごいね。」

正直感心した。

大人はすごい。

働く人はやっぱりすごい。

自分が来年、奏汰のように社会に出て働いている姿はまだどうしても想像できなかった。

『無理して就職しなくてもいいんじゃない?』

拓海の声が頭の中でくるくる回っていた。