薫は何も言わずペットボトルのミネラルウォーターを一口飲んだ。

「少し、知ってるかも。」

視線を落としたまま答えた。

「ええ!どうして?どこで知り合ったの?」

意外な薫の返答に、美鈴の声は思わず大きくなった。

「しーッ。声が大きいって。」

「あ、ごめんごめん。だって、びっくりしたんだもん。」

「私も知ってるっていっても、ちょっと人から聞いて挨拶した程度でそんなに知らないのよ。」

「何々?やっぱり失礼極まりない奴なの?」

「すごくモテるみたいだよ。だってあの風貌でしょ?女性達はほっとかないわよ。だけど、誰とも付き合わないんだって。噂ではかなりお目が高すぎて、そんじょそこらの女性では相手にならないって。何人も告白してるけど、皆撃沈らしいよ。」

「なんなの!それ!女を馬鹿にしすぎ。やっぱり最低な奴だったわけね。」

「でも、人間性はそんな悪くないって、私の男友達は言ってた。」

「人間性って、女性に対する冒涜行為も人間性の一部だよ。悪くないなんてあり得ない。」

「うん、なんか微妙なんだけどね。男同士では本当に仲間思いだし、気も利くし、男気もあって好かれてるらしいよ。女性にだけはなんていうか。嫌いっていうかどうも女性が苦手って言う方が強いみたい。」

「まさか、男が好きとか、そんなんではない??」

「ないない。現に、大学に入ってすぐ奇跡的に付き合った子がいるらしいよ。すぐ別れちゃったみたいだけどね。」

「ふぅん、大学入ってすぐって、彼は今何回生なの?」

「私たちより一つ下、2回生。」

「え!なんだ、年下じゃない。気使って損した。もっと偉そうな態度とってやればよかったわ。」

薫はふくれっつらで話す美鈴を見ておかしそうに笑った。

そして穏やかに微笑みながら、両手を合わせた。

「ごちそうさまっ。」

そう言うと、一つに束ねた髪のゴムをほどいて、長い髪を両手で掻き上げた。

ふわっといい香りが美鈴の鼻をかすめた。

きれい。

美鈴は、自分の親友でありながら、時々薫をとても美しいと思った。

自分には到底真似できないものを持っている憧れみたいなもの。