「ねっ?失礼な奴だと思わない?」

そう言いながら美鈴は学食のAランチのハンバーグを頬ばった。

「まぁまぁ、興奮しすぎだって。」

夏川 薫は、笑いながらラーメンをすすった。

薫は、大学に入ってからの美鈴の一番の友達だ。

学部も美鈴と同じ教育学部で、入学式当日から仲良くなった。

これだけ気が合うのに、不思議なほど美鈴とはタイプが違う。

元々家柄もよくお嬢様タイプで、体育会系で硬派な美鈴とは対照的に、男性にもよくモテる知的美人。

周囲の友達から、薫の隣にいたら明らかに引き立て役だよと同情されることも多かった。

そんなこと言われても、美鈴にとっては薫は自分のよき理解者であり、何か困ったことがあれば一番的確なアドバイスをくれる友達だったから、気にせずいつもそばにいる。

とりわけ恋の相談にはどんな人よりも頼れる存在だった。

「あんな無表情男、初めて見た。私の手に触れた瞬間、手を引っ込めるのよ。ひどくない?」

「ちゃんと手洗ってた?」

薫はのんびりとした口調で微笑んだ。

「洗ってるって。」

美鈴は口をとがらせて薫に返した。

「でも、すごいきれいな顔してたんでしょ?そんな男前うちの大学にいるんなら一目会ってみたいものだわ。」

「薫は、いつもかっこいい男ばっかり引き連れてるじゃない。全然問題外だと思うよ。私は見慣れてないだけで、一瞬戸惑っただけ。」

「名前は覚えてる?」

薫は興味津々な表情でほおづえを付いて美鈴の次の言葉を待っていた。

「えっと・・・拓海・・・、沢井、いや沢村拓海、そうそう沢村拓海だったと思う。」

「サワムラ タクミ・・・?」

薫の表情が一瞬ゆがんだように見えた。

「え?薫、ひょっとして奴のこと知ってるの?」