そんな深い悲しみを背負って生きてきた拓海。

私がその拓海の心を解きほぐせる??

「はい。」と言ったものの、こんな人生なめて生きてきた自分に何ができるのか見当もつかない。

何をもって、宮浦さんは自分にそれができるって断言したんだろ。

美鈴はベランダに出て夜風に当たりながら思った。

手に持ったサイダーを飲む。

喉の奥に痛いくらいの炭酸が流れていく。

でも、自分にしかできないことが、少しくらいはあるかもしれない。

お母さんの死が拓海のトラウマになってるってことは、拓海はひょっとしたらお母さん自身ともきちんと向き合えてないのかもしれない。

幼くて記憶にもとどまらなかった、お母さんの愛と。

そんなことを考えてたら、拓海のことが無性に恋しくなってきた。

訳がわからないまま、美鈴は泣いていた。

こんな涙は初めてだ。

誰かのこと思い、ただそれだけれあふれてくる涙。

自分は情緒不安定なんだろうか。

サイダーを一口飲んで、一人笑った。

自分の大切な人を助けたいのに、助けられないもどかしさ。

そして、無力さ。

こんな気持ちも初めてだ。

ただの好きとは違う。

大切な壊れそうなほどの繊細な気持ち。

手の甲で涙をぬぐうと、部屋に入ってベランダの扉を閉めた。