「あきれてはないよ。ただ、なんていうか、君みたいな人間もいるのかって、ある意味感動してるんだ。」

「それをあきれるっていうのよ。」

美鈴は必死にフォローしてる拓海をかわいいと思った。

「っていうかさ。まだ何も見つかってないなら無理に就職なんかしなくていいんじゃないの。」

拓海は正面を向いて言った。

「そんな状態で就職したって、とりあえず就職しただけで長続きしないと思うんだ。とりわけ君みたいな性格の人は。」

「どんなけ私の性格知ってるっていうのよ。」

美鈴は笑った。

「君は自分の道まっしぐらって感じがする。見たいものだけみて、見たくないものは見ずに今まで生きてきたんじゃない?」

痛いところを突かれて、無言になる。

「今はそれでいいかもしれないけど、これから先の人生ってやっぱり色んなものを見て感じておかないと難しいと思うんだよね。」

「えらく、悟った言い方するのね。私より年下のくせに。」

少しだけ言い返したくなった。

「そういうあなたは色々見てきたの?」

「見てきてるよ、ずっと小さい頃から。」

「見たら、人生のなんたるものかが何かわかった?」

「わからない。」

「じゃ、だめじゃん。」

「君よりはましだと思うけどね。」

「なによ、それ。」

思わず、ムキになって拓海に体を向けた。

「ごめん。」

「あたなは、本当に見てきたの?見たくないもの全て。」

その時、店の扉がガラガラと開いて、お客が2、3人入ってきた。

拓海は、すっと美鈴の横を離れ、ハタキを持って外に出て行った。

肝心なことが聞けなかった美鈴は心の中がモヤモヤしながらも、お客さんに笑顔で「いらっしゃいませ!」と声をかけた。