拓海は両手で耳を塞いだ。

「ごめん。声大きかったね。」

「別に。」

そう言うと、両手を耳から離した。

「賢いのね。あなたって。見かけ通りだけど。」

「そこは、見かけによらず、じゃないんだね。」

「私、嘘はつかない主義だから。」

「そんな感じだね。」

拓海は少し笑った。

この人の少し笑う顔が美鈴はたまらなく好きだと思った。

「君は、来年4回生でしょ。就職については考えてないの?」

珍しく切りかえしてきた拓海に、思わず意表を突かれる。

「え。そうね。何も考えてない。」

「大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないよね。」

「漠然とでもさ、したいこととかないの?好きなこととか、」

「好きなことはいくらでもあるわよ。何よりもこの本屋が好き!本の香りが大好き!」

無邪気に話す美鈴を、拓海は口元をゆるめて見ていた。

「じゃ、本屋に就職すればいいじゃん。」

「でもさ、それもなんだか短絡的すぎやしない?今と全然変わらないでしょ。就職活動に対する闘志がわかないのよ。」

「まぁ、言われてみればそうだね。」

拓海はそう言いながら、持っていた本を自分のバッグに直した。

「他にしたいことはないの?」

「ん-、あとは前も言ったけど、オーストリアのハルシュタットに行ってみたいってことくらい。」

拓海は驚いてるのかあきれてるのかわからないような顔をして、美鈴を凝視した。

「あきれた?」

美鈴は首をすくめた。