薫が言っていた「逃げれば追いたくなる」気持ちがわかるような気がした。

触れてはいけない拓海に触れたい。

その寂しそうな目をした彼をぎゅっと強く抱きしめてあげたいって。

そんな衝動にかられたことも、美鈴は初めての経験だった。

だけど、こんなの普通男子が女子に思うことだよね。

そう思ったら、笑えてくる。

くすくす笑っていると、

「何かおかしい?」

と拓海は尋ねた。

淡々と仕事を続けながら。

「おかしいこと考えちゃったの。」

「何?おかしいことって。」

「きっとあなたに言ったら、私のことすごく軽蔑するわ。だから言わない。」

「軽蔑?不謹慎なことでも考えてたの?」

「不謹慎と言えば不謹慎かもしれない。」

しばらく、間が空いた。

「俺も少し不謹慎なこと考えてた。」

「え?」

思わず、手を止めて拓海の方を見上げる。

胸がドキドキする。

まさか、まさかよね?

自分と同じこと考えてたなんてあり得ないし。

「・・・不謹慎てどんなこと?」

美鈴は恐る恐る聞いた。

「聞きたい?」

美鈴は無言で頷く。

口から心臓が飛び出しそうになっている。

何なの?この緊張!

美鈴は自分自身が制御の聞かないロボットになってしまったような錯覚を覚える。