段ボールから本を出す。

それを書棚に入れていく、骨の折れる作業。

一冊の本を手にとって、書棚に入れようとしたら手に持っていた本がすっと抜き取られた。

拓海が美鈴のすぐ横に立って、無言でその本を書棚に入れた。

「あ。」

拓海の横顔を見上げる。

「やっぱ俺もやるよ。」

「ありがと。」

しばらく二人で黙々と作業する。

「どうして休憩やめて手伝ってくれたの?」

美鈴は段ボールをつぶしながら尋ねた。

「別に。女子に力仕事押しつけるのも、やっぱよくないかなぁと思って。」

「へー。女嫌いが珍しいこと思うのね。」

「そうだね。俺もよくわかんないけど。」

新しい段ボールを開けて、本を取ろうとした拓海の手と美鈴の手が伸びたのは同時だった。

美鈴は不覚にも拓海の手に触れた。

細くて冷たくて柔らかい手。

美鈴は拓海より先に自分の手をひっこめた。

「ごめん。」

「大丈夫だよ。」

目だけ拓海の方に向けると、拓海は少し寂しそうに笑った。

拓海のその寂しそうな目に、美鈴の胸の奥の方がギュンと鈍い音を立てた。

なんだかわからない、初めての感覚。

どうにかしてあげたいっていう気持ちとそんなことできるはずもないっていう気持ちがぶつかり合ってる。

何も言えないまま、ただ、じっと拓海の横顔を見つめていた。