「田村さんじゃないですか。そんな格好で現れたら一瞬誰かわからなかったですよ。」

いつもの胴着姿とは違う巡査服の奏汰は新鮮だった。

「ここでアルバイトやってるって言ってたから、近くまで来たついでに寄ってみたんだ。」

奏汰は、日に焼けた顔で二カッと笑った。

そして、レジに座っている拓海に気がつくと、一礼した。

「彼は?」

職業病なのか、奏汰は何でもすぐに明瞭にしたがる。

「今週店長が入院してて、お手伝いに来てもらってるんです。」

拓海はイスから立ち上がり、軽く会釈した。

すると、奏汰は美鈴のそばにつかつかと歩み寄り、耳元でささやいた。

「かっこいい奴だな。」

そして、笑顔で美鈴の肩をポンポンと二回叩くと、

「ほんじゃ、がんばれ。」

と何をがんばるんだかわからないことを言って、敬礼をして店を出て行った。

「なんなの。びっくりした。」

奏汰が自転車走り去っていくのを見届けて言った。

「どういう知り合い?」

他人には無関心っぽい拓海が聞いてきた。

「警察署に剣道習いに行ってるんだけど、そこで教えてくれてる人。」

「すごいね。警察に知り合いがいるなんてさ。」

珍しく奏汰に食いついてくる。

「まぁ、そういえばそうだけど。私にとっちゃ単なる剣道の指導者でお兄ちゃんみたいな存在。」

「へー。お兄ちゃんか。随分、かわいがられてる感じだね。」

「そう?まー、仲良くはしてくれてるけど。」

そう言いながら、作業に戻った。