嘘つかれたことより、二人が付き合ってたことに、美鈴は少し動揺していた。

どうして動揺していたかは、美鈴自身にもはっきりとわからなかった。

だけど、多分、拓海のことが少しだけ気になってるから。

・・・気になってるからって好きだとは限らない。

美鈴は薫の目をじっと見つめながら心の中で何度も繰り返した。

「拓海とどうして別れたかっていうとね、」

薫は左手でほおづえをついて、右手に持ったフォークでパスタと遊びながら話し始めた。

美鈴は、なんだか自分が小馬鹿にされているような気がして、そんな話し方をする薫は嫌だと思った。

「彼はものすごく女嫌いだったの。っていうか、女性に対して異常に苦手意識が強いっていうか。」

「女性に触れられないんでしょ?」

思わず、薫に対抗意識が出てしまった。

美鈴を見た薫の驚いた表情を見て、「しまった」と思う。

いつも、言わなきゃいいところで口を滑らせてしまう。

「ひょっとして拓海がそう言ってた?」

「ううん。だって、薫にも話したけど、おつり受け取る時ちょっとでも手が触れそうになったら自分の手を引っ込めたりおかしいじゃない。要は異常な女嫌いで触れることすら嫌なのかなって思って。」

「さすが、美鈴の勘の良さにはいつも驚かされるわ。」

薫はようやくホッとした様子だった。

美鈴も余計なこと言った自分自身をフォローできて安堵する。

「そうなの。彼は潔癖っていうか、女性に対してだけ特別そうみたい。とりあえず、私からモーションかけて付き合ってみたんだけど、ほとんど拓海には拒絶されて疲れ果てて別れた感じよ。しゃべるだけなら全く問題はないんだけどね。男と女にはなれなかった。」

ドキン。

男と女。

美鈴にはまだ無縁の言葉。

「だけど、それだけにずっと拓海のことは引きずってる。」

薫の声のトーンが一オクターブ低くなった。