しばらく、呆然とレジの前に座っていた。

まだ胸がドキドキしている。

沢村 拓海・・・。何なの?あの人は。


「おい、どうした?」

頭上で店長の声がした。

「魂の抜け殻みたいな顔して。」

店長は笑いながら、私の頭をこづいた。

「ほんとだ。今魂抜けてたよ。」

美鈴は笑いながら答えた。

「な?美男子だったろ?」

店長はひそひそ話をするような格好で言った。

私は何も言えず、うんうんと軽く頷いた。

「でも、なんだか冷たい感じだよね。能面みたいに表情がぴくりとも動かないの。店長の時もいつもあんな感じ?」

「ん?いつもにこやかな好青年だけど。違った?」

!!!

うそでしょ??!

にこやかだんなんて?!

そんな表情想像すらできないくらい冷ややかな無表情だったよ!

美鈴にとっては、一層ショックな返事だった。

普通に笑えるんだ。あの「子」。

私みたいなタイプ、よほど嫌いなのかもしれない。

エプロンのポケットに入っていた手鏡を広げて自分の顔を見た。

確かに色白とはほど遠い小麦色の肌。

目もちっちゃいし、鼻も低い。

だけど、小麦色の肌たって健康的そのものだし、ちっちゃい目もつぶらでかわいいなんてよく言われるし、低い鼻も愛嬌あるじゃない?

そんなに見てて腹立たしい顔してる?

美鈴は、ふぅと長いため息をついた。

「恋わずらいですか?」

店長はにこやかに美鈴の肩をポンポンと叩いて店の奥に入って行った。