新刊を並べ終わった拓海は、ふぅと一呼吸しながら、額の汗をぬぐった。

そして、美鈴の方をちらっと見る。

美鈴は素直に「ありがとう。」と言った。

「次は何すればいい?」

拓海が尋ねた。

時計を見ると、もうすぐ13時だった。

「お昼にしようか。私、お弁当持って来てるから、どこかに食べに行ってきてもいいよ。」

拓海はレジの下に置いてある自分のバッグを拾い上げた。

「駅前のコンビニで適当に買ってくるよ。」

「うん。それでもいいよ。」

「ついでに何か買ってくるものない?」

えらく気の利いたことを言う拓海を少し驚いた顔で見た。

「どうしてそんなびっくりした顔してるの?」

美鈴は気持ちが顔に出てしまったことに気づいて慌てて笑った。

「あなたってよくわからないわ。私のことは気にしないで買って来て。」

拓海は「ふん」とかすかに笑うと、そのまま店から出て行った。

雨は少しゆるんできたようだ。

雨の日の本屋は、美鈴は嫌いじゃなかった。

雨の湿度のせいか大好きな本の香りが一層濃くなる。

本に囲まれた世界にぎゅっと押し込まれたような感覚になれるのがたまらなく気持ち良かった。

だけど、今日に限っては気の使う得たいの知れない能面男と二人きりだったから、落ち着かなかったけど。

美鈴は、お客のいない間にお昼を食べようとリュックから作ってきたおにぎりを出した。

大きなおにぎり。

おにぎりの中には市販のミートボールを入れている。

ミートボールのタレがご飯にしみこんで、いい具合になるのだった。

「いただきます。」

一人で手を合わせておにぎりにかぶりついた。