「何々?二人、何か私に隠してる?」

わざとおどけた調子で薫と拓海の顔を交互に見た。

「僕が一回生の時、少しだけ付き合ってた。」

拓海は、たんたんと言った。

いつもの無表情で。

「そ、そうだったんだ。」

思わず喉の奥がゴクリと鳴った。

「ごめん。隠すつもりはなかったけんだけど、結局美鈴に言えなかった。」

言ってくれればよかったのに。

言いそうになったけど、黙っていた。

拓海が大学入って唯一奇跡的に付き合った人って、薫のことだったんだ。

どういう訳か、また口の中がからからに渇いている。

自分のリュックからマイボトルを取り出して、ミネラルウォーターをごくんと飲んだ。

冷静を装うのがつらいくらいに、鼓動が激しく打ってる。

「以前付き合ってたにしては、仲良くできるもんなんだ。」

どんどん空気を悪くすること言っちゃうなと思いながら、口から出て来る。

美鈴は自分の思考回路が一部破壊されていると感じながら。

「別に憎しみあって別れたわけじゃないからね。」

拓海はどうしてこうも冷静でいられるんだろう。

薫はうつむいていた。

前、食堂で拓海を見送っていた時みたいに泣き出しそうな顔をしていた。

「私は結構無理してるんだけどね。」

薫はうつむいたまま絞り出すような声で言った。

時計を見る。

9時15分。

そろそろ仕事の分担と説明しなくちゃと、こんな状況で焦る気持ちがわいていた。

拓海が何か言おうとしていたのを遮って、

「ごめん、後でゆっくり話しよ。とりあえず今日の仕事の段取り説明させてもらってもいい?」

美鈴は少し緊張した声で二人に言った。

店長代理という緊張からくるのか、別のものなのかは自分でもよくわからなかった。