相変わらず表情のない拓海ではあったけれど、美鈴はその存在に安堵する。

「はい。」

「急に呼び立ててごめん。電話で話すより会って話す方が早いと思ったから。」

「私もそう思いました。」

「驚いてたよね。店長の携帯から僕の声が聞こえて。」

美鈴はコクリと頷いた。

薄暗い人気のない公園で、今拓海と二人で話していることがふと夢ではないかと感じるような空気。

「ベンチに座ろう。走ってきたんだろう?」

どうしてわかったの?

首を傾げて拓海を見ると、彼は少し口元をゆるめて、私の額を指刺した。

指刺された場所に手をやると、汗が流れ落ちていた。

慌ててポケットからハンカチを取り出して拭いた。

よく考えたら、剣道の稽古からシャワーも浴びずそのままだ。

汗臭くはないだろうか?

美鈴は思わずハンカチで顔を押さえた。

拓海はゆっくりとベンチに座る。

美鈴は一人分間を開けてその横に座った。

「とりあえず、今の状況を説明するね。店長はこの市立病院に入院してる。急性盲腸炎だそうだよ。」

「盲腸?!」

「さっき緊急手術が行われて今はゆっくり休んでる。特に命にかかわる病気でもないから、1週間ほどの入院で退院できるよ。」

「そう。よかった。」

いつも元気な店長が入院だなんて、それだけでショックだったけれどすぐに退院できそうで安心する。

「で、どうして僕が付き添ってたかっていうと、丁度僕が書店を訪れていた時に店長が倒れたんだ。他に客はいなくて僕だけだったから、とりあえず救急車を呼んで、知人ということで同乗して病院まで来た。そして、店長に頼まれて君に電話したってこと。」

どうして、その時に自分が店にいなかったのかと悔やまれる。

いつもお世話になりっぱなしの店長が大変だっていう時に限って。