ちょっとした相手の隙を見逃さず、声を上げて相手に竹刀を振り下ろす。

美鈴は高校から剣道を始めたが、ようやく相手の隙が見えるようになってきた。

神経を研ぎ澄ませ、集中すると相手の心が読める。

武道ならではの感覚だと思う。

不思議だけれど、普段の生活でも友達の気持ちが読めるようになっていた。

そして、ここだけは踏んではいけないという地雷も見える。

便利なこともあるけど、時々見えすぎて苦しくなることもあった。


「美鈴、お前まだ彼氏できないのか。」

練習が終わり、面を外しながら奏汰が尋ねてくる。

「それ、毎回聞いてますよね。」

美鈴は面タオルを外して、前髪を掻き上げた。

「ひょっとして田村さん、私のこと気になってるんじゃないですかぁ?」

「ばか言え!俺はお前みたいなガキは相手にしないっての。お前みたいな変わり者と付き合ってくれるような男がいるのか心配なだけだ。」

「大きなお世話ですって。そのうちとびきり素敵な彼氏連れて町歩いてやるんだから。」

「ふぅん。それは楽しみだな。」

「田村さんこそ素敵な彼女はいるんですか?」

「ふん。」

奏汰も面タオルを外して、鼻をこすった。

「ちょっと前まではいたさ。」

「えー!それは初耳!ね、どんな人ですか?」

美鈴は奏汰に詰め寄った。

「お前に彼氏ができたら教えてやるさ。」

「そんなのずるーい!」

「じゃ、おつかれさん。」

奏汰はすくっと立ち上がると、道場に一礼して颯爽と出て行った。