しばらく呼び出し音が鳴っていた。

なかなか出ないから、またかけ直そうとしたとき「はい」と電話の向こうで声がした。

「あ、クローバー書店の松浦と申します。先日ご予約頂いていた本が入荷してまいりましたのでご連絡致しました。」

「はい。どうも。取りにいきます。」

「いつ・・・」

美鈴が「いつもありがとうございます」と言い終わらないうちに、電話が冷たく切れた。

ツーツーツー

何なのもう。

感じ悪い「子」ねぇ。

少し低音の声は、確かに若い声だった。

高校生か、大学生だろうか。

美鈴は、店長に呼びかけた。

「ねー、店長。この本の予約した「子」ってどんな感じだったぁ?」

店長は本棚にハタキをかけている手を止めて美鈴の方に顔を向けた。

そして、にんまり笑うと、

「すごい美男子。」

と言ってまたハタキをかけ始めた。

「美男子って・・・言い方古いってぇ。」

美鈴は笑いながらその数冊の本を書店の袋に入れて、レジの下に置いた。

「その、美男子くんは、ここにはよく来るの?」

「よく来るよ。なかなか勉強熱心だ。」

「ガリ勉って嫌い。」

美鈴は、感じの悪い電話の切り方をした美少年を想像しながら言った。

「ガリ勉って風には見えないけどね。大学生じゃないかな。法律関係の本をよく注文してる。」

店長はハタキを美鈴に渡すと、

「ほら、さぼってないでしっかり働いて下さいよ。」

と笑いながら、店の外に並べてある本を整理しに出て行った。